ロック画面は、人々がスマートフォンでの操作をする際に、初めに触れる画面だ。そのため、ここの操作方法が刷新されることは、スマホそのものの印象を大きく変える可能性がある。

iPhoneを買い換えずに、今使っているデバイスに最新のiOS 10を導入することになる人も少なくないはずだ。筆者が経験したのと同じように、スマホを使う一手目の操作が全く異なることは、人々に戸惑いを与えるのではないか、と感じている。

スマートフォンはiPhone以降、基本的にタッチスクリーンによる操作を行うデバイスとなった。そのため、1本もしくは2本の指でのジェスチャーによって、快適な操作が行えるよう最適化されてきた。

タップ、スワイプ、長押し、フリックといった1本指のジェスチャーに加え、2本指をつかったピンチイン、ピンチアウト、2本指タップが行えれば、基本的にはどんなアプリでも操作できる仕組みだ。iOS 6までは、こうしたジェスチャーを自然に行えるよう、現実のものを画面内に再現する表現、スキュアモーフィズムが取り入れられていた。

マルチタッチディスプレイに慣れるという時代はiOS 6でひとまず終わったというイメージがある。iOS 7ではフラットデザインと呼ばれる、より抽象度が高い画面デザインが採用されたが、それ以前に習得したジェスチャーはそのまま利用できるようなっていた。ジェスチャーへの慣れを活かしつつ、デザイン変更によるユーザー体験の低下を防ぐという施策であったと言えよう。

そして、今回のiOS 10。iPhone登場以来、維持してきたロック画面のジェスチャーの変更と、新しいインターフェイスのジェスチャーへの最適化は、ユーザー体験の刷新という点で、iOSにとって大きなアップデートである、と解釈できる。

ただ、ホーム画面の操作方法の刷新は、ドラスティックな変化にも感じる。これまでAppleは、新しいインターフェイスを導入しても、以前の操作方法を残して、緩やかな移行をユーザーに促してきたからだ。ホーム画面の操作方法をみると、段階的な移行と言うよりは、断絶的な変更に見える。

まだパブリックプレビュー版であり、これまでの操作方法を踏襲する可能性もあるかもしれない。代替案としては、ロック画面に「スワイプしてロック解除」というUIを復活させ、それ以外の画面を左から右にスワイプするとウィジェットが登場する、という方法がよいと考えているのだが。

松村太郎(まつむらたろう)
1980年生まれ・米国カリフォルニア州バークレー在住のジャーナリスト・著者。慶應義塾大学政策・メディア研究科修士課程修了。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。近著に「LinkedInスタートブック」(日経BP刊)、「スマートフォン新時代」(NTT出版刊)、「ソーシャルラーニング入門」(日経BP刊)など。ウェブサイトはこちら / Twitter @taromatsumura