7月15日発売の『もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃』。これは、マイナビニュースで連載されている「兼業まんがクリエイター・カレー沢薫の日常と退廃」を文庫化したものです。

装丁は既刊「負ける技術」により一層「負け感」をプラスしたデザインになっていて、特にスーパーの値引きシールのようなアクセントが目をひきます。この装丁は、いったいどうやって作り上げられたのでしょうか。

今回は、装丁デザインを手がけたデザイナ-・田中秀幸さん、講談社の担当編集Sさん、そしてカレー沢さんにヒアリングした声をもとに、そのメイキングをご紹介します。

0:タイトルの決定

講談社・担当編集Sさん:
確か、モーニングのFさんにタイトルの件で相談していたときに、シリーズものといえば「あぶデカ(あぶない刑事)」だろうと勝手に先走ってしまい、今後第3弾、第4弾と続いたときにも好都合だからと、「もっと」を思いついたように記憶しています。

しかし即断するには不安があり、カレー沢さんにタイトル発案のご協力をお願いしたところ、ハリウッド映画的な『負ける技術オブザデッド』とか『ザファイナル』といった逆のテイストの提案をいただくとは思いもよらず、発想力の格差に打ちひしがれました。

最終的には、文庫読者は善男善女も多いので、一般性も高そうな「もっと」を採用させていただきました。

1:打ち合わせ

デザイナー・田中秀幸さん:

田中秀幸
デザイン傭兵所DT(Double Trigger)代表。装丁、撮影、インタビュー、企画と、出版関係からグッズ関係までお金で解決できることならなんでも請け負うエクスペンダブルなデザイナー。最近の装丁は『もっと負ける技術』(講談社刊)、『アメコミ映画完全ガイド2016』(洋泉社刊)、『バトルスタディーズ』(講談社刊)など。自著にオタク女子を取材し1冊にまとめた『ヲ乙女図鑑』(コトブキヤ刊)、「ひとつぼ展写真部門」グランプリ受賞経験有。お仕事ください。Twitter: @ianlife

講談社文庫担当のSさん、カレー沢さんの記念すべき初コラム本「負ける技術」の初代担当・Fさん、それと私の3人で打ち合わせから入りました。『負ける技術』をベースとした展開が続編感もあり望ましい。というのが三人の意見として一致しました。

「もっと」の扱いは「もっとあぶない刑事」のようなノリで、堂々としたものがいいというSさんのリクエストも入りました。あとはその他のデザインも作った上で検討を重ねることにしましょうと解散。

初稿案のデザインは、既刊の文庫版『負ける技術』をベースにしたものから考えずに、新しい展開のものから作っていきました。というのも、前回のデザインをベースに「もっと」をどう配置すべきか、これといって良案が浮かばなかったのです。

もっとポップに作れるだろうと他のデザイナーさんに突っ込まれそうですが、『負ける技術』』には妙な悲壮感、負けてる感が必須なのでこのようになっております。

新しい展開案は作っていて楽しいんですが、続編感に乏しいのでこのくらいにして、『負ける技術』ベース案に向き合うことにしました。

こちらが『負ける技術』の表紙です。これをベースとして「もっと」を配置します。

何も目新しさを求めず、シンプルに「もっと」をドスンと配置して王道なデザインで作ればいいじゃないかと思われるかもしれません。でも私なりにカレー沢薫はそのようなラインに乗せたくない。稀有な存在にさせたい、カレー沢薫らしいテイストの「もっと」を配置したいと考えていました。

2:デザイナーから見たカレー沢薫

デザイナー・田中秀幸さん:
ちなみに、私の考えるカレー沢薫とはどんなイメージなのかお話させてください。文庫になる前、ソフトカバー判で出版された『負ける技術』のデザインにそれが反映されています。こちらです。

青い部分は、ビニールシートの写真です。上野に行って、定住しないアウトドアな方の仮住まいのテントの一部を撮影して表紙にしました。私の思うカレー沢薫は「何かヤバイ」感を持っている作家で、それをデザインにもにじませてないともったいないと思うのです。

「もっと」のデザインはかなり悩みました。他の仕事をしつつですが2日ほど 進行は止まりました。

ご神託が降りてきたのは3日目、お昼のコンビニ弁当を食べ終えた時です。コンビニ弁当の空き箱が表紙の背景とか面白いかな、と考えた時、ふと見切り品の食べ物に張られる半額シールのことをなぜか思い出したのです。昔、よく半額弁当ばっかり買ってやりすごしていたよな。あれは負けてる感そのものだったなと……。

半額シールが「もっと」になっていたら。(BGMに中島みゆきの「地上の星」がかかってると思って下さい)

すぐにIllustratorを開いてその半額シールをデザインしました。

笑いがこみあがりました。酷い。これしかないと。

一応これをベースに背景を変えた案も作り、新規のものも含めて文庫担当のSさんにデザイン案を送りました。ピンクのものを調整したものが、最終的なデザインに決定しました。

色に関して、青系だとダークなイメージ、緑や赤というのも候補だったんですが、今回は紫~ピンク系かなと。女性ファンも多いので、「可愛い」感じにも したかったのでこの色を選びました。

講談社・担当編集Sさん:
田中さんのデザインラフのご提案は、「もっと」を割引シール化したアイデアの3枚(背景がピンクの、赤の写真)を初めていただきました。ただ、頭におにぎりとかを乗っけているこちらのバージョンは今初めて拝見したので、現在のしょっ引かれてるバージョンにイラストを変更したうえで、お送り下さったのかと思います。

直感で、ピンクのバージョンが可笑しいし可愛いし、負けてるしという突き刺さるバイブスを感じ取ったので、原案の元になるこの案でお願いすることにしました。