注目を集めるテレビ番組のディレクター、プロデューサー、放送作家、脚本家たちを、プロフェッショナルとしての尊敬の念を込めて"テレビ屋"と呼び、作り手の素顔を通して、番組の面白さを探っていく連載インタビュー「テレビ屋の声」。

今回の"テレビ屋"は、NHKのコント番組『LIFE!~人生に捧げるコント~』の総合演出・西川毅氏。テレビでのコントが難しくなった昨今、10年以上にわたってこのジャンルの制作に携わり続けているが、NHKという公共放送の組織でどのようにして実現できたのか。座長・内村光良への思いも含めて語ってくれた――。


西川毅
1977年生まれ、東京都出身。2001年にNHKに入局し、エンターテインメント番組部に配属。その後、福岡放送局に異動し、ニュースやバラエティなどローカル番組を制作する。再び東京に異動し、『サラリーマンNEO』第2シーズンからスタッフに加わる。その後も『祝女』『LIFE!~人生に捧げるコント~』とコント番組を企画・制作し続けている。

●影響を受けたテレビ番組:『夢で逢えたら』(フジテレビ系、1988年~1991年)

――今回、西川さんを指名された日本テレビの古立善之さんから「NHKでコントをやるっていうことがどれほど大変なのか、ぜひ聞いてみてください」と言われてやってきました。

民放さんは、視聴率やスポンサーが絶対で、それに適わないものはアウト。だからある意味分かりやすいと思うんです。だけどNHKは、視聴率も無関係ではないんですけど、それより「なんでNHKで放送するの?」という意義を、特に番組立ち上げの時にものすごく問われるんですよ。だから、他のジャンルに比べてコントのようなバラエティ番組は、なかなか企画が通らないんです。「その内容なら民放でもできるでしょ」って言われて。そこをどう突破するかが一番大変なところですね。

――入局された当時、NHKではコント番組はほぼなかったと思いますが、自分が将来コント番組を作ると思われていましたか?

僕は最初からコント番組をやりたくてテレビ局を志望したんです。当時、コントといえばフジテレビだったんで、もちろんフジテレビも受けました。でも通るわけもなく(笑)、拾ってくれたのがNHKだったんです。とは言え、入社当時はNHKでコントを作れるなんて、思わなかったです。『サラリーマンNEO』(※1)が始まって、そこにディレクターとして加わって、段々、夢に近づいていったというか。でも『サラリーマンNEO』もいわゆる僕がそれまでなれ親しんだコント番組ではなかったですね。俳優さんだけで、ドラマを撮るみたいにコントを撮っていましたから。でも逆にそれがすごく良かったです。新しいコント番組を作るためのヒントをたくさん見つけることができたんです。

(※1)…サラリーマンを題材にした独特の「笑い」と「風刺精神」で作るコメディ番組。2004年にスタートし、2011年にSeason6まで放送された。生瀬勝久、沢村一樹らが出演。

――『サラリーマンNEO』のチーフディレクター・吉田照幸さんはどのような方でしたか?

ユニークで大好きな先輩ですね。自分を出すことを恐れない作家性を持っている。NHKは、地方局もあって異動や転勤が多いので、基本的にレギュラー番組は誰でも作れるようにシステム化されていくんです。でも吉田さんの場合、自分にしかできないものを作る、自分にしか撮れない画を撮るという意識がすごく強くて、番組のあらゆることを自分で決めていたんです。出会ったときは、NHKにこんな人がいるんだってカルチャーショックでしたよ。「ディレクターは才能よりも情熱がないとダメだ」ってよく言ってて、僕も総合演出の立場になって、つくづくそう思います。下手でも上手くても、まず情熱がないとダメですね。

――『NEO』の現場はどうでしたか?

僕にとってコントを作る作業は快適でした。ものすごく会議が長いんですよ。まず吉田さんが最近見た面白いものとかをずーっとしゃべる。半永久的に本題に入らなくて(笑)。それが吉田さんなりのアイドリングなんでしょうね。それで「じゃあ、始めますか」って言って、若手の作家が書いてきたコント台本を、吉田さんと作家の内村宏幸さんが見て選んでいく。その中から残った台本を、さらに「オチが甘い」とか「どうしたらもっと伝わるか」をずーっと話し合うんです。アイデアを出し続けるのが苦痛な人もいると思うんですけど、僕はその作業が心地良かった、というか、燃えた。そういうものを求めてテレビ局に入ったので。面白いウソをみんなで膨らませて、それが実現するっていう作業がすごい楽しかったです。

――その後『祝女~shukujo~』(※2)の立ち上げに関わられるわけですね。

先ほども言った通り、NHKでは単純にコント番組をやりますっていうのでは企画が通らない。『NEO』でやってなくて、かつNHKとして意義のある切り口をすごく考えました。『NEO』の会議で、女性を主人公にしたコント作りにいつも苦戦をしていたんですよ。女性の気持ちは分からないって。だから『NEO』は女性のコントはやらないだろうなっていうのがあったんで、できるかどうか分からないけど、女性を主人公にしたコメディをやってみようとなりました。女性は日常の葛藤の数が男性よりも多い。歳を重ねるごとに悩みが変わったり、人間関係も複雑だったり、それをすくい上げて笑いで女性に元気を与えるというコンセプトなら、NHKの番組としても意義がある。また当時のNHKの「女性視聴者を獲得したい」という機運にちょうどハマって、上手く企画が通ったんです。

(※2)…女心の機微を絶妙に描いたコメディ番組。2008年にスタートし、2012年にSeason3まで放送された。友近、YOUらが出演。

――ここから『LIFE!』の話をお伺いしたいのですが、担当されている演出の業務の範囲はどのような内容ですか?

一番分かりやすく言えば、総合演出なので全てのクオリティに対して責任をもつということ。例えば、台本は僕と担当の作家さんがやり取りをしながら直していきます。納得いくまで話して直して、7稿くらい重ねることもあります。コントは、半分は僕、もう半分は若手ディレクターたちが撮っています。でも、絶対にコントで外しちゃいけない部分があるので、そういう芝居の付け方や撮り方に関してはチェックします。編集をはじめとするポスプロも同じです。ただ、決して自分の好みをスタッフに押し付けるのではなく、一緒に良いものを目指すという感覚が強いです。面白いものになるまで妥協しない、一緒に考え続ける、それが僕の仕事ですね。

『LIFE!~人生に捧げるコント~』(NHK、毎週木曜22:25~22:50)
人生の"可笑しさ"や"哀しさ"を、さまざまな設定やキャラクターのオムニバスコントでつづる番組。ウッチャンナンチャンの内村光良のほか、田中直樹(ココリコ)、西田尚美、星野源、石橋杏奈、臼田あさ美、ムロツヨシ、塚地武雅、吉田羊らが出演。

――番組制作のスケジュールは、どのようになっていますか?

月曜日に若手作家を集めた台本会議があって、火曜日がチーフクラスの作家の台本会議。それと平行して編集も行っています。水曜日がMA。木曜もしくは金曜日が収録です。そして土・日に台本直したり…その繰り返しですね。

――こちらの企画の立ち上げは、どんな意義を持って進んだのでしょうか?

『NEO』と『祝女』が同時期に終わってどうしようかと思っているときに、当時のBSの編集主幹が『NEO』のファンで、コント番組を立ち上げられないかって話があったんです。そこから、内村(光良)さんとやることを前提に、『笑う犬』シリーズ(フジテレビ)や『NEO』、『祝女』とも違う切り口はないかとずっと考えていました。

そんなとき、内村さんが「子供がかわいい」と言っているっていうニュースを見たんです。(内村の従兄でもある)宏幸さんから、独身時代は全然そういうものに興味がない人だったっていうことを聞いていたので、ああ、歳を重ねて変わっていらっしゃるんだなと、当たり前のことに気づいたんです。そんな人生経験を積んだ内村さんが表現する笑い、それで、"人生"をテーマにしようと思ったんです。「笑いで人生を表現します」というのも、歳を重ねた内村さんなら『笑う犬』のときよりも説得力あるじゃないですか。これなら『笑う犬』とも違うし、NHKでも企画が通りやすいぞって(笑)