国立遺伝学研究所(遺伝研)は7月6日、さまざまな組織切片の染色体テロメアの長さを3時間で検出できる方法を開発したと発表した。

同成果は、国立遺伝学研究所 前島一博教授、大学院生 佐々木飛鳥氏らの研究グループによるもので、7月6日付けの英国科学誌「Scientific Reports」に掲載された。

染色体の末端はテロメアと呼ばれる繰り返し配列により保護されているが、ある種のがん細胞では、テロメアの長さが極端に短くなっており、テロメア長はがん診断のバイオマーカーになると考えられている。

テロメア長の測定には、蛍光色素などで標識した核酸プローブを用いて標的塩基配列を可視化する「FISH法」がこれまで用いられてきたが、同方法では、熱や変性剤を用いて二本鎖DNAを解離させるという細胞内の構造を壊す危険性のある操作を行う必要があり、組織切片において特定の細胞をラベルするための免疫染色との併用を困難にしていた。また、FISH法を用いたテロメア標識には1日以上の時間がかかるため、サンプルが多い場合、多くの時間と労力が必要という課題があった。

これまで、同研究グループは、テロメア配列特異的に結合する蛍光標識「PIポリアミド」を開発し、その大量合成法や、テロメア配列への特異性を上げた改良型の開発にも成功してきた。PIポリアミドは、熱や変性剤処理を必要とせずに、培養細胞の標本と混ぜるだけでテロメアを標識できるもので、抗体と混ぜるだけで免疫染色を同時に行うこともできる。

今回、同研究グループは、マウスおよびヒト凍結組織切片での改良型のPIポリアミドによるテロメア標識に成功。また、生殖細胞の染色体のテロメア長を調べるために、PIポリアミドと始原生殖細胞マーカーを同時に用いてマウス精巣を染色した結果、始原生殖細胞のテロメアと体細胞のテロメアを区別して観察することに成功した。

さらに、腫瘍マーカーと併用して、ヒト食道がん・非がん組織切片のテロメアを染色し、PIポリアミドの蛍光強度を定量した結果、腫瘍マーカー陽性細胞におけるテロメア長の短縮を確認することができた。

同研究グループは今回の成果について、PIポリアミド化合物が基礎研究だけでなく臨床分野においても広く用いられることが期待されるほか、同技術では細胞内の空間情報を保持したままテロメアを標識できることから、超解像顕微鏡技術と組み合わせることにより、老化やがん化の研究に寄与することが期待されるとしている。

がん・非がん組織切片を染色した画像。緑がテロメア(PIポリアミドで染色)、赤色が腫瘍マーカー陽性(抗Ki-67免疫染色)、青色がDNA(DAPI染色)を示す。がん組織切片では細胞増殖マーカーが陽性である細胞、がん細胞が観察される

がん・非がん組織切片におけるテロメアの蛍光強度を定量したグラフ。がん組織切片におけるテロメアの蛍光強度は、非がん組織切片よりも小さく、テロメアが短くなっていることが確認された