お笑いコンビ・ピースの又吉直樹が、芸人初の芥川賞に輝き、大ベストセラーとなった小説『火花』。動画配信サービス・Netflixでドラマ化され、世界190カ国への配信を開始してから1カ月が経過した。

日本独自の文化である「漫才」にスポットを当てた作品のため、海外のユーザーに受け入れられるのか…といった不安もあったが、実情はどうなのか。Netflixの最高コンテンツ責任者であるテッド・サランドス氏に、日本発作品への期待を含めて話を聞いた――。


Netflix最高コンテンツ責任者のテッド・サランドス氏

――『火花』が配信されて1カ月がたちました。視聴ユーザーの半数が海外からだと伺いましたが、この評価はいかがですか?

日本の制作者は、これまで国内に向けてすばらしいテレビ番組や映画を作ってきた歴史がありますが、アジア以外でそれらの作品が目に触れる機会が、それほどありませんでした。今回『火花』が、世界190カ国に配信されましたが、海外のユーザーにもとても喜んでもらっています。「漫才」というとても日本的で独特な世界観を持った作品でも受け入れられているということは、すばらしいことだと思っています。

――海外の人たちは「漫才」を知らないので、「漫才」で検索して『火花』を見るわけではないですよね。Netflixは、ユーザーへのレコメンド(おすすめ)機能によって視聴する形が多いと思うのですが、どういった要素でレコメンドされ、『火花』が海外の人に見られているのですか?

日本が好きなユーザーにレコメンドされていることもありますが、『火花』という作品は悲哀を帯びているものなので、感動的で情緒のある作品が好きな方に届いているんだと思います。悲しい作品を見て、自分の現状と置き換えて、「あ、まだ自分はまだマシなんだ」という風に感じる方もいるかもしれないですね。

『火花』
売れない芸人・徳永(林遣都)と、その彼が師と仰ぐ先輩芸人・神谷(波岡一喜)の姿を通して、笑いとは・才能とは・生きるとは・人間とはを描く作品。全10話で5人の監督が演出を手がけている。

――やはり海外には「漫才」が理解されないのではという懸念がありましたが、サランドスさんはご覧になって理解できましたか?

私は見る前に漫才の複雑さを全く知らない状態で拝見したんですが、非常に魅了されました。スタンダップコメディなど、ちょっとした寸劇に近いところもあるので、海外のユーザーも見ていくうちに理解できるようになって、すぐになじむことができると思います。

――漫才は2人ですが、日本には1人で行う「落語」という古典芸能もあります。こちらをテーマにしたドラマ作品も最近増えているんですよ。

そうなんですか! 今後社内の会議で「RAKUGOはどうか?」と話したら、みんなびっくりしますね。今度言ってみたいと思います(笑)

――『火花』を世界配信するのをジャッジされたのはサランドスさんと伺っていますが、その決め手はなんでしたか?

現場の作業は日本のチームが取り組んでいたのですが、とにかく原作が大変な人気であるということと、いただいた内容を見て、新たな試みとして良い作品になるのではないかということで判断しました。

――他の国でも、それぞれオリジナル作品を制作していると思いますが、今どれくらいの数が進行しているんですか?

オリジナル作品の制作に着手しているのは12カ国で、現在51本を手がけています。幸いなことに優れたチームが各国にいるので、私が全てに携わることはなく、必要なところに入って作業しているという形ですね。

――これまでも、フジテレビが制作したリアリティ番組『テラスハウス』などの日本のコンテンツが配信されていますが、世界でウケていますか?

とてもよく受け入れられています。アメリカにも同じようなリアリティ・ショーはあって、こちらの出演者はみんな意地悪なんですが、『テラスハウス』の場合は皆さんとても礼儀正しいので、そこが魅了されていますね。内容的には恋愛などの人間関係を描くものなので、それはどの国でも普遍的に支持されます。

――サランドスさんは、好きな日本の映像作品はありますか?

やはり黒澤明監督ですね。彼ほどすばらしい仕事をした人はいないと思います。現代のものはちょっと追いつけていないですが…三池崇史監督ですかね。すばらしい映画監督で、ちょっとダークで万人向けの作品にはならないかもしれませんが(笑)、できればシリーズ物を撮ってもらえればいいなと思います。

――今後もぜひ日本の作品をNetflixを通して世界で配信してほしいと思うのですが、求める作品像はどのようなものでしょうか?

個人的には、あえて海外向けに作りこみをせず、あるがままの日本らしい作品が、どうすれば世界の皆さんに喜んでもらえるのかというのを考えています。今までは、それが効果的に行われていないということがあると思いますので、まずは実現できるすばらしい物語と、それを作る作家を見つけなければいけないと思っています。日本のルーツをきちんと保ったままの作品に出会い、世界に持って行きたいのですが、その要素が何かというのは、まだ分かりません。経験を積んで、探っていきたいですね。

テッド・サランドス
2000年からNetflixのコンテンツ取得部門を指揮。ホームエンターテインメント関連に20年以上の実績があり、Netflix入社前は動画配信会社ETD、Video City/West Coast Videoの取締役。
アスペン研究所のヘンリー・クラウン・フェローで、学校の芸術教育に特化したNPO、Exploring The Artsの役員を務め、さらにトライベッカ映画祭とロサンゼルス映画祭の映画諮問委員、アメリカン・シネマテークの役員、米国テレビ芸術科学アカデミーの執行委員、アメリカン・フィルム・インスティチュートの理事も兼任している。

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