産業技術総合研究所(産総研)は7月5日、多層カーボンナノチューブ(CNT)を、金属や炭素材料からなる3次元物体の表面に成長させる方法を開発したと発表した。

同成果は、産総研 物質計測標準研究部門 熱物性標準研究グループ 渡辺博道主任研究員、物理計測標準研究部門 石井順太郎副研究部門長、マイクロフェーズらの研究グループによるもので、近日中に英国科学誌「Nanotechnology」オンライン版に掲載される。

近年、CNTの反射率がほぼゼロである特性に着目し、CNTを遮光材や発光体に利用する試みが注目されている。しかし、従来のCNT成長法であるCVD法では、スパッタリング法のような真空中で行う高度な表面前処理が必要となり、成膜できる物体の形状が制限されてしまうため、汎用的な光学機器の内部にCNTが遮光材として使用された例はこれまでになかった。

今回、同研究グループは、アルミナ粉体を高圧空気の噴射気流中に混入し物体表面に高速で衝突させ、表面の汚染物質の除去や表面粗さを均質にする粒子ブラスト処理を行い、表面に堆積したアルミナ粉体の残渣をCNT成膜に必要な鉄触媒の担持層として利用。タングステン(W)を含む18種類の金属や炭素材料の物体表面に、アルミナ粒子による粒子ブラスト処理を行った後、鉄蒸気を触媒としたCVD法により物体表面へのCNT成長実験を行った。この結果、18種類の物体表面すべてで、多層CNTの黒色皮膜が均質に成長することを確認した。

今回開発された手法により、たとえば、円筒形状のレンズ鏡筒内部に多層CNTを直接成長させて鏡筒内の散乱光を大幅に抑制することでカメラや天体望遠鏡の解像度・光感度を大幅に向上させることが期待される。同研究グループは今後、民間企業と協力して実用化するとともに、測定・観測技術の高度化を目指していくとしている。

開発したCNT成長法の概略図(上)と、粒子ブラスト処理後と多層CNT成長後のW基板の写真(下)