映画監督に出演役者の印象を伺っていく「監督は語る」シリーズ。今回とりあげるのは、俳優・菅田将暉(23)。2008年にジュノン・スーパーボーイ・コンテストでファイナリストとなり、2009年には『仮面ライダーW』にてライダーシリーズ最年少の主役に。以来、話題作に名を連ね続け、2016年には9本の映画作品が公開される。

映画『二重生活』(6月25日公開)では、門脇麦演じる主人公・白石珠と同棲生活を送るも、次第に二人の関係に亀裂が入っていく様子を繊細に演じている。これだけ様々な作品から引っ張りだこになっている理由はいったいどこにあるのだろうか。

岸善幸監督(右)
1986年、テレビマンユニオンに参加以降、数々のドキュメンタリー番組を手がける。演出の他プロデュースでも、多くの優れた映像作品を生み出す。綿密な取材に基づいた構成、演出には定評があり、各局から指名を受ける数少ないディレクターである。NHK「少女たちの日記帳 ヒロシマ 昭和20年4月6日~8月6日」は放送後に多くの反響を呼び、サンダンス映画祭ではノミネートこそ逃すものの国内外の選考委員に高く評価された。2012年元旦から放送されたNHK大型ドキュメンタリードラマ「開拓者たち」(全4話)や東日本大震災被災地でロケを敢行した「ラジオ」など、ドキュメンタリーで培った独自の演出方法は、俳優陣からも絶大な信頼を得ている。

菅田将暉の印象

いろいろな作品に出演が続いていますが、演出する側がこういう役者を求めているんだと思います。いろんな顔を持っているし、現場で湧き上がってくるアイディアも、どんどん投入してくれるんです。もちろんベースとして、彼が役の人物造形をしっかり作り込んでいるからできることなのですが、現場でさらに深めてくれました。

菅田くんのシーンは珠と同棲している部屋がメインだったのですが、部屋の中なんて、撮影場所としては地味なわけです。その中で、2人の関係性がわかるようなアイディアを出してくれたのが菅田くんでした。例えば珠が外出した後に卓也が洗濯物をたたむシーンも、ト書きにはなかったのに自分から動いてくれました。また、そのしぐさがいつもやっているんだろうなと思わせるほどリアルで。きっと頭の中で考えるだけでなく、身体を使って表現できるし、表現せずにはいられないんじゃないかな。

撮影現場の様子

最初に台本を読んでもらった時に「これは僕たち世代の映画です」と言っていたのが印象に残っています。菅田くんが「自分の周りでも、考えてることを口に出せないし、出してしまって関係性が壊れるのを怖れるみたいな同世代はたくさんいる」と言っていたのを原作者の小池真理子さんに伝えたら、とても喜んでいました。小池さんは年下の人の話をあまり手掛けてないらしいので、20代の役者さんに共感してもらえて嬉しいと。

結構短い撮影期間で、珠との恋の顛末を一気に撮っているので、2人の演技の応酬は面白かったです。カットしてしまいましたが、菅田くんは寝ているシーンで、本当に寝ちゃったんですよね。本人は「撮影チームの雰囲気作りが上手過ぎて、思わず寝てしまった」と言ってましたが(笑)。現場の雰囲気作りに関しては本当に何度も感心してくれてました。

おすすめシーン

次第に2人の間に生じはじめた亀裂に、触れずに過ごしていたけれど触れざるを得ない、という場面がおすすめです。彼にはすごくエロさがあるんです。美しさのなかに、長谷川博己さんのような渋みのある男性とは違う、まだ少年性を留めているようなエロさ。麦ちゃんとの相乗効果で、大人と少年の間にいる危うさが際立ったと思います。

生きることの根本には性的なものがあると考えているので、色気やエロさというものはかなり意識して撮りました。それも直接的な描写ということではなく、滲み出てくるものを捉えたいと。そういう意味では、菅田くんは20代なのに、直接的じゃない色気の出し方をしていただいたと思います。見えればいいってもんじゃないエロさを、ぜひ感じて欲しいです。

■作品紹介
映画『二重生活』
大学院で哲学を学ぶ珠(門脇麦)は、修士論文の準備を進めていた。担当の篠原教授(リリー・フランキー)は、ひとりの対象を追いかけて生活や行動を記録する"哲学的尾行"の実践を持ちかける。同棲中の彼(菅田将暉)にも相談できず、尾行に対して迷いを感じる珠は、ある日、資料を探しに立ち寄った書店で、マンションの隣の一軒家に美しい妻と娘とともに住む石坂(長谷川博己)の姿を目にする。作家のサイン会に立ち会っている編集者の石坂がその場を去ると、後を追うように店を出る珠。こうして珠の「尾行する日々」が始まった。6月25日公開。

(C)2015『二重生活』フィルムパートナーズ