京都大学(京大)と日立製作所(日立)は6月23日、共同研究部門「日立未来課題探索共同研究部門(日立京大ラボ)」を同大学内に開設すると発表した。

日立京大ラボでは、未来の社会課題の解決と経済発展の両立を目指し、「ヒトと文化の理解に基づく基礎と学理の探究」をテーマに掲げ、「2050年の大学と企業のあり方の探索」「ヒトや生物の進化に学ぶ人工知能」「基礎物理のための先端計測」という3つの具体的な課題に対して共同研究に取り組んでいく。期間は2016年6月から2019年の3月まで。

日立製作所 執行役社長兼CEO 東原敏昭氏

日立製作所 執行役社長兼CEO 東原敏昭氏は、同ラボ設立の目的について、「日立はIoT時代のイノベーションのパートナーになると宣言しているが、IoTによって繋がり、便利になるということは、クオリティオブライフ(QOL)の向上にどう寄与していくのか、生物の進化という観点から原点に戻って考えていきたい」とコメントしている。

共同研究は、京大吉田キャンパス国際科学イノベーション棟に、日立の基礎研究部門の研究者8名(特定准教授2名、共同研究員6名)が常駐し、京大側の各分野の研究者がそこに参画する形で行われる。これは京大が進めている産官学連携の取り組みのうち、包括連携共同研究にあたるもので、研究課題を探索するフェーズから企業と連携し、社会課題に取り組んでいくものとなる。

以下、共同研究で取り組む3つの課題について簡単に紹介する。

「2050年の大学と企業のあり方の探索」

京大が持つ複数の学問領域の見識および日立のデザイナーが描く将来像を融合させ、社会実装していくことを目的とした研究となる。具体的には、複数の研究者へのインタビューを通し、2050年の社会課題について列挙。これをもとに、合同ワークショップを複数回開催し、2050年の社会課題を複数個程度まで絞る。その後にシンポジウム等を開き、社会課題解決のための提言をしていくという流れで進めていく。

「2050年の大学と企業のあり方の探索」

「ヒトや生物の進化に学ぶ人工知能」

日立が開発に取り組む自律分散システムは、魚の協調行動やゴリラの自律分業などといった、生物の集団としてのふるまいをヒントにして生まれたものである。研究では、生物の集団/個のふるまいを人工知能に落とし込み、社会システム全体の最適化に結び付けていくことを目指す。

「ヒトや生物の進化に学ぶ人工知能」

「基礎物理のための先端計測」

日立は今年4月に世界最高分解能となる43pmを達成したホログラフィ電子顕微鏡を完成させている。研究ではこれを活用し、極低消費電力メモリとして期待されるスキルミオン(微小磁気渦)物理の解明に挑戦する。

「基礎物理のための先端計測」

京都大学 山極壽一総長

日立京大ラボについて、京都大学 山極壽一総長は、「京都大学には、数理、物理、生命科学、医学だけでなく、霊長類研究所、人文科学研究所、こころの未来研究センターなど、他の大学にはない独創的な研究部門がある。こういった学問を結集して日立との共同研究に取り組んでいきたい。日立と京大の各々の強みを生かし、多角的なイノベーションの可能性を探るために、対話を重視する取り組みを通して人類未踏の領域を開拓し、社会に還元していくことを期待している」と意気込みを語っている。

なお日立は、同様の取り組みを東京大学と北海道大学でも行っていくことをすでに発表しているが、これについては「社会課題の解決を目指すというところは同じ。各大学の特徴を生かして取り組むテーマを決めた」と説明している。日立の基礎研究部門には100名程度の研究員が在籍しているというが、そのうち約30名をこれらの取り組みに当てる予定であるとしていることから、同社の産学連携への熱意が伺えるだろう。

握手を交わす山極総長と東原社長