国立精神・神経医療研究センター(NCNP)、 国立長寿医療研究センター、日本医療研究開発機構(AMED)は6月22日、認知症予防を目的とする40歳以上の健康な日本人を対象としたインターネットレジストリ「IROOP」の運用を開始すると発表した。

NCNP 水澤英洋理事長

認知症、特にアルツハイマー病に対する対策が国際的に急がれている昨今だが、アルツハイマー病を根本的に治療する薬の開発は進んでいるとはいえない。その原因のひとつとして、認知症の発症を予防するための方策を見つける研究や、認知機能の改善が期待される薬の効果を確かめる治験が計画されている場合でも、その有効性を検証するのに適した人に参加募集の案内をすることが難しいことがあげられる。また、NCNP 水澤英洋理事長は、「認知症の治療は、発症してからでは遅いと言われており、発症前に診断をして超早期治療・予防をしていこうという流れが世界的にある。そのためには健康な人に登録していただいて、認知症に発展していくであろう人たちを見つけていく作業が必要になる」と説明している。

そこでIROOPでは、日本に在住し日本語を母国語とする40歳以上の健康な国民を対象に、インターネット上での登録を数万人規模で募る。この際、性別や服薬の有無は問われず、同意が得られるのであれば、特に除外基準は設けられていない。

登録にはeメールアドレスが必要となる。登録したユーザーは、まず、インターネット上で氏名、生年月、性別などの基本情報を入力し、所要時間約25分程度の初回アンケートに回答するとともに、認知機能を簡易にチェックできる「10単語記憶検査」という電話による15分間の検査を受ける。そして、登録から半年ごとに、所要時間20分の定期アンケートと、電話検査を受けるという流れになっている。検査の結果は、翌日からIROOPサイト上のマイページで確認することが可能だ。

検査スケジュールとアンケート項目

認知機能検査

この半年ごとの記憶機能の経過に関連する因子を、アンケート情報から調査・解明し、認知症の発症予防に役立てることが、IROOP運用の目的となる。また登録者のうち、適したユーザーには、生活習慣の改善などにより認知症の発症を予防する臨床研究や、認知機能の改善が期待される薬の効果を確かめる治験が案内される。

「IROOP」の概要。厚生労働省の認知症施策推進総合戦略「新オレンジプラン」に基づく研究として、認知症が発症する前の症状をとらえることで、生活習慣の改善などにより発症を予防する因子の解明や、認知機能の改善が期待される薬の開発のための臨床研究や治験促進を行っていくことが目的

登録予定人数は、初年度で年間8000人。登録の受付開始は7月5日正午を予定している。今後は登録者数を確保するために、全国約400の国立病院や認知症疾患医療センターなどに登録啓発のための広報ポスターや冊子を設置していくという。

また現在、欧米ではインターネットを用いた健常者レジストリとしてBrain Health Registry(BHR)が、アルツハイマー病の予防研究や治験を促進するレジストリシステムとして欧州のEuropean Prevention of Alzheimer's Dementia consortium(EPAD)や米国のGlobal Alzheimer's Platform(GAP)が運用されているが、IROOPはBHRと協調していく形となる。水澤理事長は、「インターネットを活用した認知症の予防の手法は行われているが、こういった組織的な形で構築されたものは世界初」とコメントしている。

左から、NCNP 脳病態統合イメージングセンター 松田博史センター長、NCNP 水澤英洋理事長、国立長寿医療研究センター 鳥羽研二理事長