東京工業大学(東工大)と電気通信大学(電通大)は6月15日、発光酵素ホタルルシフェラーゼ(F-Luc)と反応して近赤外光を産生する基質を開発し、マウス腫瘍モデルを用いた実験で最大40倍検出感度を上げることに成功したと発表した。

同成果は、東京工業大学 口丸高弘助教、近藤科江教授、電気通信大学 牧昌次郎助教、丹羽治樹教授らの研究グループによるもので、6月14日付の英国科学誌「Nature Communications」オンライン版に掲載された。

F-Lucを用いた発光イメージングは、世界標準の光イメージング技術で、小動物を用いた創薬研究に不可欠な技術となっている。しかし、自然界に存在するF-Lucの発光基質であるD-ルシフェリン(D-luci)は、組織透過性が乏しい可視光領域の光を産生するため、体内深部の観察には限界があった。また、これまでに開発された近赤外発光を産生する基質は、産生する光が極端に弱かったり、水溶性が乏しく生体に応用できなかったり、F-Lucの変異体にしか反応しなかったりなど、実用的ではなかった。

今回、同研究グループは、水溶性に優れ、毒性もなく、効率よく近赤外光を産生する基質「Aka-HCl」を開発。D-luciや、同じく可視光に発光ピークをもつ改良型D-luciの「CycLuc1」と比較すると、F-Lucと反応して産生する発光の組織透過性が高いことが、厚さ4mmおよび8mmの牛肉スライスを用いた実験で示された。

牛肉スライスを用いた組織透過性評価。マルチウェルプレートにF-Lucと各基質を入れて、その上から牛肉スライスを乗せて、牛肉を透過してくる光を上部からイメージング(左)し、透過光の強度を測定(右)

さらに、生体内深部の発光シグナルの検出感度を検証するために、検出が特に難しい肺がんモデルマウスを用いてイメージングを行ったところ、他の基質に比べて極めて高い感度で肺がんを検出することができた。

F-Lucを発現するがん細胞を移植した肺がんモデルマウスに、各基質を図に示した濃度で投与した後、発光イメージングでがん細胞を可視化したもの

同研究グループはAka-HClについて、既存のF-Lucの遺伝子改変マウスや遺伝子導入細胞を用いた実験系に広く応用可能であるとしている。なお同基質は、「TokeOni(808350-5MG)」という名称で米国Sigma-Aldrichより販売されている。