東京大学(東大)は5月24日、季節性インフルエンザウイルスの抗原変異を予測する新規技術を開発したと発表した。

同成果は、東京大学医科学研究所 感染・免疫部門ウイルス感染分野 河岡義裕教授らの研究グループによるもので、5月23日付けの英国科学誌「Nature Microbiology」オンライン版に掲載された。

季節性インフルエンザに対するワクチンは、その発症や重症化を防ぐ効果があるが、ワクチン製造で使われるウイルス(ワクチン株)と実際に流行したウイルスとの間で、ウイルスの主要抗原であるヘマグルチニン(HA)の抗原性が一致しないと、ワクチンの予防効果が弱まる。そのため、頻繁に抗原変異が起こる季節性ウイルスに対しては、毎年のようにワクチン株を見直す必要があるが、現行の技術では、抗原変異の予測を誤ることがあり、ワクチンの予防効果が十分に発揮されないことがあった。

同研究グループはこれまでに、変異をもつインフルエンザウイルスを人工的に作出することができる「リバースジェネティクス法」を開発していた。同手法を用いて、インフルエンザウイルスのHA遺伝子にさまざまな変異(ランダム変異)を導入することで、多様な抗原性状を持つウイルス株の集団(ウイルスライブラリ)を人工的に作出することができる。

今回の研究では、将来流行する季節性ウイルスの抗原性状を予測するため、2009年に世界的大流行を引き起こしたウイルス「A/H1N1pdm」をもとに作られたウイルスライブラリからさまざまな抗原変異株を分離し、その遺伝子性状および抗原性状について流行株と比較した。

まず、A/H1N1pdmの感染者/感染動物から採取した血清とウイルスライブラリを混合した後、培養細胞に接種し培養。その後、抗体による中和を回避することで増えてきた変異株を回収した。この変異株の遺伝子性状を解析したところ、HAの抗原決定領域に複数の変異が生じていることがわかった。また、変異株は流行株に対する血清との反応性が低いことを、赤血球凝集抑制(HI)試験によって確認。同試験で得られたデータを解析し、抗原変異のパターンを分析することによって、今後A/H1N1pdmで起こる抗原変異を予測した。

今回の研究で同定された変異を持つウイルス「16-1/4変異株」が今後自然界で流行するのかどうかを検証するために、2009年にヒトから分離されたA/H1N1pdmの流行株(CA04株)に対する抗体を持つフェレットに対し、CA04株または16-1/4変異株を感染させた。この結果、CA04株を感染させたフェレットからはウイルスは検出されなかったが、16-1/4変異株を感染させたフェレットからは大量のウイルスが検出された。これは、このような変異を持つA/H1N1pdmウイルスが今後自然界で流行する可能性があることを示しているといえる。

これに加え同研究グループは、香港型「A/H3N2」ウイルスのライブラリから単離された抗原変異株の分析によって、実際のインフルエンザ流行シーズンに起きた抗原変異を事前に予測することに成功している。

同研究グループは、今回開発された予測技術によって、将来流行するウイルスの抗原性状と一致するワクチン株を先回りして準備することが可能になるとしており、今後はB型インフルエンザウイルスで起こる抗原変異を予測する技術も開発する予定だという。

リバースジェネティクス法のイメージ