5月11日、東京ビッグサイトで計12のIT専門展から成る「2016 Japan IT WEEK 春」が開幕した。本稿では、インテル IoT事業本部 副社長 兼 市場・チャネル推進事業部長の ジョナサン・バロン氏が登壇した基調講演「IoT:It's About Time ~いよいよ実現する、IoTが創る新たな世界~」の様子をレポートしよう。

インテル IoT事業本部 副社長 兼 市場・チャネル推進事業部長 ジョナサン・バロン氏

今はまだIoTという"巨大な山"の麓

バロン氏は講演の冒頭で「ここ数年で"IoT"というキーワードが台頭してきたが、概念としては新しいものではなく、発想自体もシンプル。しかし、中身をひも解いていくと、非常に複雑な部分が見えてくる」と語る。

IoTの定義は、PCやモバイルデバイスに限らずあらゆるモノがインターネットにつながることだ。低コストかつ拡張性の高いコンピューティング技術がどのような業種・業態でも活用できるようになり、そこから生成された数多くのデータがビジネスモデルを変革。そして人々の生活自体を変えていく、大きな節目になるという。

実際にIoTの市場規模は毎年約20%の伸びを示しており、「2025年には15兆ドル前後まで成長」「接続デバイスは500億台以上に達する」といった予測も上がっている。こうした状況について、バロン氏は「私たちは今、かつて見たこともないほど巨大な山の麓に立っている。これをどのように上っていくかが重要」と語った。

ここでバロン氏は、現在取り組まれているIoTの事例をいくつか紹介した。

まず自動車業界では、自動走行技術が大きな進化を遂げている。自律型ソフトウェアが走行の安全性を確保し、複数のカメラは周辺環境を把握する"究極のセンサー"として機能。ソフトウェア・デファインドによって、まさに自動車自体がモバイルなデータセンターになりつつあるという。

農業においてもIoTの活用が進んでいる。マレーシアの農園では、40平方マイルにわたり設置したセンサーで水や土壌の質、空気中の成分などの環境を評価。気候データと組み合わせて最適な生産条件を算出したそうだ。その結果、収穫回数が年2回から3回となり生産量は約2倍に増加、水の使用量は10%削減できたという。

そのほか、IoTは製造や医療、環境などあらゆる分野で活用されているのである。

IoT普及の鍵は各社の協力で成り立つ新エコシステム

ただし、バロン氏は「こうしたソリューションは非常に有用だが、一方で簡単に実装できないというのもまた現実だ。ソリューションの実現には数多くのパートナーが関わる必要があり、そこには複雑な絡み合いが生じてくる。また、標準化を含めて相互運用性など技術的な課題も残っている」とも語る。

こうした中で、インテルが率先して取り組んでいるのが"リスクの低減"だ。技術的な拡張性を高め、それを低コストで使える機会を増やすことにより、IoTソリューションへのハードルとリスクを下げるのである。そこで同社では、End to Endの観点から市場全体を俯瞰しつつ、垂直型の展開を考えているという。

「ここ数年、水平型プラットフォームの構築に躍起になっていた時代があった。しかし現在、まず求められるのは業種・業態ごとに何が有用かを実証していく垂直型ソリューションであり、これを実現するのが各社の協力によるエコシステムなのだ」と語る。

同社が提唱するエコシステムは、各企業がソフトウェアや各種機器などを製造・販売するだけの従来体制に、さまざまなコンポーネントを組み合わせるソリューション・プロバイダーを組み込んだもの。多彩な分野の企業が一堂に会して初めて、新しいエコシステムが完成するのである。

ただし企業が増えると、その分だけ個々の関係性が複雑化する。単純に1社対1社の協力関係では、それこそ指数関数的に関係性が増えるわけだ。そこで同社では、各社の接点にハブを設けることで、ダイナミックな関係性を維持しながらも、複雑化によるリスクの低減が実現するという。

「私たちは眼前の巨大な山を前に、業界・業種を超えて協力関係を築く必要があります。そして今こそ、パートナーと共に試行錯誤を繰り返しながら、山頂へ向けての歩みを進める時」と語るバロン氏。

最後に、同社創立者であるアンディ・グローブ氏の"偉大なものを構築するためには楽観主義者でなければならない"という名言を引用し、「多くの人々が不可能だと感じることをやりたいと思う、この楽観主義の考えが重要だ。楽観主義者となって、ぜひ皆さんと一緒に山頂への旅路を歩みたいと思う」と講演を締めくくった。