理化学研究所(理研)は4月26日、アトピー性皮膚炎モデルマウス(Spadeマウス)を開発し、このマウスにおけるアトピー性皮膚炎発症のメカニズムを解明したと発表した。

同成果は、理研 統合生命医科学研究センター疾患遺伝研究チームの吉田尚弘チームリーダー(研究当時)、安田琢和研究員(研究当時)らの共同研究グループによるもの。詳細は米国の科学雑誌「Journal of Clinical Investigation」(オンライン版)に掲載された。

アトピー性皮膚炎は、遺伝的に皮膚のバリア機能に障害がある人で発症しやすいことが知られているが、そのメカニズムについては良く分かっていなかった。今回、研究グループはアトピー性皮膚炎を自然発症するマウスを開発、原因となる遺伝子を調査したところ、「JAK1」と呼ばれる細胞内信号伝達分子のアミノ酸配列に変異を起こす変異を発見。さらに、アトピー性皮膚炎を引き起こす原因は皮膚組織の側にあり、免疫系にはないことを確認したとする。

Spadeマウスのアトピー性皮膚炎発症メカニズム。表皮の中では通常、皮膚バリアの恒常性が維持されているが、JAK1シグナルが強く入ることで皮膚バリアが破壊され、真皮の自然免疫系の活性化も招いてアトピー性皮膚炎発症に至る。今回、JAK阻害剤やワセリンを塗ることで発症を予防できることが確認された

この結果を受けて研究グループは、JAK1を介したシグナルが強く入ることによってアトピー性皮膚炎が起こると予想。JAK阻害剤をマウスの皮膚に塗ったところ、発症を遅らせることができることを確認。また、皮膚バリア機能が低下すると発症しやすいことも確認。発症4週間前からワセリンを1日おきに塗布した結果、塗布から2カ月以上にわたって発症を予防できること、ならびにワセリンを塗った皮膚ではバリア機能が改善しているだけでなく、アトピー性皮膚炎発症前の真皮に炎症細胞が集まることを防いでいることも確認したという。

JAK1分子のアミノ酸1つの変化で信号伝達が活性化される(上図)。JAK阻害剤を塗った場合のアトピー性皮膚炎の発症頻度(左)と、耳の臨床スコア(右)のグラフ。耳の臨床スコアは、耳の皮膚炎の臨床症状を掻破行動および外見でスコアリングしたもので、Spadeマウスの皮膚炎進行度を点数化したもの。○が無処置群、●はJAK阻害剤塗布群で、JAK阻害剤を塗ると、発症を遅らせることができることが見て取れる(下図)

上の図は皮膚にビオチン(ビタミンB群)を塗った直後の浸透性。野生型マウス(左)では角質表面にビオチン(赤い色)がとどまるのに対し、Sapdeマウス(右)ではバリア機能が低下して角質の中に浸透してしまっている。青い色は真皮細胞。PBSはリン酸緩衝生理食塩水で、皮膚に何も塗らなかった場合を示している(スケールバーは20μm)。下の図は発症前からのワセリンを1日おきに塗布した場合のアトピー性皮膚炎の発症頻度(左)と、耳の臨床スコア(右)のグラフ。赤色の○が無処置群、オレンジ色の●がワセリン塗布群を示しており、ワセリンを塗ることで発症を予防できることが分かる

理研では、ヒトにおいてもJAK1の活性化がアトピー性皮膚炎と関連しているのかどうかを調べる目的で、患者の皮膚におけるJAK1活性化を調査。その結果、6人の患者のうち4人の患者の表皮細胞でJAK1活性化が起こっていることが確認されたとする。

なお、研究グループでは、今回報告されたマウスを用いて研究を進めることで、遺伝的な発症素因を持つ個体が未病の状態のときに何が起こっているのかを観察することが可能になるため、今後、発症に関わる複数の要因を分子レベル、細胞レベルで調べていくことで、さまざまな発症予防法や治療法の確立につなげられるのではないかと期待を述べているほか、アトピー性皮膚炎発症を契機として段階的にさまざまなアレルギー性疾患が発症する「アトピックマーチ」の研究にもつなげられるのではないかとしている。