日本電信電話(NTT)は4月11日、高感度センサや高精度発振器に広く用いられているメカニカル振動子と量子ドットを結合した新しい半導体素子を作製し、量子効果を用いた超高感度の計測手法を実証したと発表した。同成果は英科学誌「Nature Communications」に掲載された。

メカニカル振動子とは、鉄琴の板や鐘など、決まった周波数で振動が続く人工構造のこと。近年ではテクノロジーの進展により微細化や集積化が進み、MEMS振動子としてセンサや発振素子などの微小素子として用いられている。メカニカル振動子の振動を高感度に検出する手法は、重力波検出をはじめとするさまざまな実験における重要な要素技術であり、レーザー干渉計や超電導素子などを用いた方法が開発されてきた。

今回の研究では、振動が引き起こす「歪」に対して敏感に特性が変化する量子ドットをメカニカル振動子に組み込んだ新構造の半導体ハイブリッド素子を試作。量子ドットの抵抗値の変化により、振動子の微細な動きを高感度に検出することに成功した。

試作したメカニカル振動子は、心臓部に長さ50μm、幅6μm、厚さ1μmの小さなバネを有している。このメカニカル振動子は極めて軽量であるため、熱エネルギーによるランダムな振動が発生する。今回、量子ドットをメカニカル振動子に組み込むことで、メカニカル振動子の動きを量子ドットに高効率に伝えることが可能になり、100mKという非常に低い温度における熱振動を検出することに成功した。この時の最小検出変異は63 fm/Hz0.5で、水素原子の直径の1000分の1以下という極めて小さなものだった。また、量子ドットに閉じ込められた電子の状態によって振動子の共振特性が大きく変化し、電流による振動の増幅や減衰が生ずることも確認された。

今回得られた振動の検出感度は量子限界(量子力学におけるメカニカル振動エネルギーの最小値)の約70倍にまで迫るもので、今後は素子構造の最適化などを行うことで、量子限界に至る超高感度計測技術の確率を目指すとしている。

(a)作製したメカニカル振動子の顕微鏡写真。振動子は約900nm厚のGaAsにより作製され、下地から浮いたブリッジ状の構造をしている。振動子が上下に振動することにより、支持部に組み込んだ量子ドットに歪がかかる。(b)支持部に埋め込んだ量子ドットの拡大図。黄色に見える部分は表面に蒸着した金電極で、この電極に負電圧を印加することにより、量子ドットを形成する。