マーケティングの世界において、消費者の消費行動プロセスを表すモデルには、さまざまなものがあります。特に有名なモデルとして、米国で1920年代に発案された「AIDMA(アイドマ)」や、2004年に電通が提唱した「AISAS(アイサス)」があります。

今回は、人々による情報への接触手段とメディアの在り方が変化したことで生まれた、新しい消費行動プロセス「DECAX(デキャックス)」について、前編と後編に分けてご紹介します。まず前編では、AIDMA、AISAS、DECAXの各消費行動プロセスが誕生した背景についてご説明します。

AIDMA、AISASが誕生した背景について

AIDMAは「Attention(注意)→Interest(興味)→Desire(欲求)→Memory(記憶)→Action(購買)」というユーザーの消費行動プロセスを表します。一連の流れとしては、企業がマス広告を打ち出して、その商品またはサービスに関する認知を高め、人々の欲求を引き出し、消費行動を起こしてもらうというものです。これは、20世紀初頭にマーケティングという単語と共に登場したモデルであり、製造や流通に加え、情報も大きなノードに集約した方が、技術的にもコスト的にも合理的であるという判断に基づいていました。

大量生産によりコモディティ化された商品が、大型流通の店頭に競合商品と共に同時陳列されている環境では、ブランド認知率が商品選択率に比例するという、シンプルかつ偉大な方程式を編み出した広告主は、テレビ・新聞などのマスメディアを活用し、集約的に情報をディストリビューションするチャネル上でSOV(Share of Voice)争いを繰り広げてきました。

そしてインターネットの登場・普及に伴い、AIDMAでは全ての人々の消費行動を説明することが難しくなりました。そこで、電通は2004年に「AISAS(アイサス)」を提唱しました。これは「Attention(注意)→Interest(興味)→Search(検索)→Action(購買)→Share(共有)→Search(検索)」というユーザーの消費行動プロセスを表しています。「Search(検索)」においては、比較サイトでの商品やサービスのレビューが再びSearchの対象としてフィードバックされるという意味合いも含んでいます。このように、人々による検索行動やオンライン購入が普及するにつれ、マーケターは、広告でブランドを事前に認知させておき(Memory)、店頭で自社ブランドを選択してもらうように促すというマーケティングに加え、消費者が自発的に情報を検索し、そのままオンライン上で購入するという行動パターンにも対応する必要がでてきました。

一方、このオンライン完結型消費者の登場は、購入プロセスの可視化を推し進め、デジタル・マーケティングという消費行動を起点とする帰納的なアプローチを体系化してきました。そこで、従来のマスマーケターは、広告認知を起点としながらも、この新しいデジタル・マーケティング手法を取り込む方法を模索してきました。例えば、企業が広告キャンペーンを打ち出す際に「詳しくは○○(商品またはサービス名)を検索」という文面を表示して人々の検索を促し、予め用意しておいた詳細情報が載っているウェブページを確認してもらい、購入や資料請求などのコンバージョンに紐付けるといったものです。

このAISASモデルは、マス・マーケティングの大量生産・大量流通・大量認知というAIDMA原理に基づくマーケティングインフラ上に、可視化と効率化を求める為にデジタル・マーケティングのノウハウを付加した、ハイブリッドモデルと解釈することができます。

DECAX(デキャックス)が必要になった背景

そしてAISASが生まれて10年以上が経ち、メディアやデバイスのテクノロジーの更なる進化に伴い、新しい情報行動・消費行動が生まれてきていると考えられます。その仮説をモデル化したものが「DECAX(デキャックス)」です。これは、「Discover(発見)→Engage(関係構築)→Check(検証)→Action(購買)→eXperience(再体験)」の頭文字から成り立っており、AIDMAやAISASが認知や消費行動のプロセスをメディアやチャネル視点で解釈していたのに対し、DECAXでは生活者とコンテンツとの接点を中心に議論を進めています。特に認知の入り口となる「Attention(認知)⇒Interest(興味)」のプロセスが、従来のモデルから大きく異なっていますが、これはインターネットの普及によって情報が爆発的に増加し続けていることから、画一的な認知形成が非常に困難になってきた事が背景にあると考えられます。スマートフォンの普及やソーシャルメディアやキュレーションメディアの台頭、またその裏側にあるメディアテクノロジーの進化により、消費者はマスメディアに頼らずとも、これらのデバイス・メディア上に何気なく提示されているコンテンツを半ば無意識のうちにクリックする事で、最新の時事情報から個人的な関心事まで、全ての新しい情報を仕入れる事が可能になってきており、そういった情報行動が習慣として定着し始めてきています。

このような受動的に情報選択が迫られる時代では、今までのプッシュ型メディアにおける配信効率や認知効率ではなく、生活者に情報を「Discover(発見)」してもらう仕組みがより重要になってきます。

このような状況から、多くの企業が自社のオウンドメディアを立ち上げ、ユーザーにとって有益な情報を発信し、そのコンテンツを通じて潜在顧客を見込み顧客に変化させ、最終的なコンバージョンに紐付けることを目的とした、コンテンツマーケティングの手法を展開するようになりました。DECAXは、このコンテンツマーケティングの肝である「Discover(発見)」を含めて、現代の人々が消費行動に至るまでの流れを説明できるモデルとなっています。

今回は、AIDMA、AISAS、DECAXの3つのユーザー消費行動プロセスが誕生した背景についてご説明しました。後編ではDECAXにおいて、一つ一つのプロセスに関する概要のほか、コンテンツマーケティングの肝である「Discover(発見)」の手法およびその重要性についてご紹介します。

著者略歴

内藤 敦之
電通デジタル・ホールディングス シンガポール リージョナルダイレクター
1998年電通入社。関西支社でマーケティング、デジタル・ビジネス、クリエイティブ、グローバル・ビジネスを担当後、2012年より電通デジタル・ホールディングス支社に異動し、シンガポールでデジタル領域の事業開発・パートナーシップ開発を担当。2015年より現職。