3月1日、トヨタとヤンマーがマリン事業分野において業務提携することを基本合意したと発表した。トヨタといえば、誰もが知る自動車産業のトップ企業。マリン事業に進出していることを意外に思う方も多いかもしれないが、1997年から市場に参入し現在に至っている。一方のヤンマーは、産業用ディーゼルエンジンの生産を主軸とし、マリン事業でも確固たる地位を築いている。

トヨタとヤンマーが提携することは、プレジャーボート市場における久々のビッグニュースだろう。過去には大衆車並みの価格設定のヤマハ「SRV」(1995年)のリリースや、ヤマハとヤンマーの共同開発によるボートの登場(2003年)など、意表を突くニュースがあったが、今回の案件はそれ以来の驚きといえる。

ボートショーでコンセプト艇を披露

両社が提携する主なステージは、プレジャーボートのハル(船体)だ。これまでトヨタはアルミ素材をハルに採用してきた。アルミ製ハルは剛性に優れ、走破性・旋回性・静粛性に分があるが、高い加工技術が必要となり生産性に難があった。そこで目をつけたのが、軽量かつ複雑な曲面形状に対応しやすいFRP(繊維強化プラスチック)素材だ。FRPの成型技術で先行するヤンマーと協業することで、「FRP・カーボン・アルミ」の複合素材を採用した「トヨタハイブリッドハル」の開発に成功。このハルを用いたプレジャーボートのコンセプト艇『TOYOTA-28 CONCEPT』を、3月3日から開催された「ジャパンインターナショナルボートショー2016」で披露した。

TOYOTA-28 CONCEPT。全長9.14m✕全幅3.16m、総トン数3.9トン、定員12名となっている

先進的なキャビン内(左)。黒い部分のエンジンはトヨタ製、グレー部分のドライブユニットはヤンマー製だ

ショー開催に先立って行われたレセプションで、トヨタ自動車 専務役員 友山茂樹氏は、「トヨタとヤンマーそれぞれの強みを生かしプレジャーボートの開発を進める。今回披露したコンセプト艇をベースに、10月に商品化したい」と話した。

驚いたのは、コンセプト艇開発の速さだ。ヤンマー 専務取締役 苅田広氏によると、「トヨタとの協業の話が出たのは、昨年のボートショーでのこと。お互いにマリン事業の夢を語り合ったことがスタートだった。斬新な内容のコンセプト艇の開発は困難だったが、異例ともいえるほどの短期間でコンセプト艇を開発できた」と、驚きを交えながら語った。 両社の協業はハルだけにとどまらない。自動車産業で培ったトヨタのエンジンや運転制御システムに、和船・プレジャーボートで長い歴史を誇るヤンマーのスクリューといったドライブユニットが融合。さらには商品開発だけでなく、販売・アフターサービスといった分野でも協業することを視野に入れている。日本のマリン産業に一大勢力が生まれた格好といってよい。

トヨタ自動車 専務役員 友山茂樹氏(左)とヤンマー 専務取締役 苅田広氏(右)