誰もが大切だと分かっているお金。だけど思うようには手に入らなかったり、積極的に儲けることに後ろめたさを感じたり――。私たちがお金を稼ぐことを妨げているものとは、一体なんなのだろうか。

人気漫画『賭博黙示録カイジ』から経済学を学ぶ、累計34万部のベストセラーシリーズの4作目となる『カイジ「したたかにつかみとる」覚悟の話』(サンマーク出版/1,500円+税)を発表した木暮太一さんは、同書の中で「したたかさ」を持つ人が勝つと繰り返し語る。私たちに足りない「したたかさ」や必要な心構えについて聞いた。

木暮太一(こぐれたいち)さん
経済入門書作家、経済ジャーナリスト。慶應義塾大学経済学部を卒業後、富士フイルム、サイバーエージェント、リクルートを経て独立。学生時代から難しいことを簡単に説明することに定評があり、著書に『僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?』(星海社新書)、『今までで一番やさしい経済の教科書』(ダイヤモンド社)など多数

「理念さえあればいい」は間違い!

――ずばり、お金を稼ぐために、まずは何をしたらいいでしょうか?

まず前提として、「理念」と「利益」が対になるものだということをしっかり認識することが必要です。今、社会起業やNPOなどが流行っていて、「理念が大事」だとすごく言われている。もちろんそれも大事なんですけど、理念だけでうまくいくわけではないんですよ。でも、みんな分かっているはずなのにそこは目をつぶって、「理念さえあればいい」とか「理念がないのは全部ダメだ」みたいな空気があるんですよね。

じゃあ、街中の商店街のお店も全部理念があってやっているのかと言ったら、多分そんなお店はほとんどない。むしろ「生活のために始めた」とか「代々から引き継いでやってる」いうお店のほうが圧倒的に多いので、それらを否定することになっちゃうんですよ。

理念がなければいけないとか、崇高な取り組みをしなければならないということに強くとらわれるあまりにお金を稼ぐことに対して非常に後ろめたい感情を持ってしまっている人が僕の周りにすごく多いんです。でもそんなの、「何言ってんの?」みたいな話で(笑)。

「理念」と「利益」は両方とも大事で、片方なくなっても進まないということをまず認識することがスタートじゃないかなって思います。

――著書の中でも、日本人はお金に対して積極的になれないというか、お金の話を遠ざける風潮があることを指摘されていますが、やはりそういう気持ちがお金を稼ぐことを妨げているんでしょうか。

そうだと思います。特に「値付け」に関して、ものすごく引け目を感じている人が多いですね。相場感がある出版業界は比較的ラクなんですよ。例えばビジネス書が1冊1,500円だとしても、別に誰も「え~!?」って言わないじゃないですか。

でも、その本と同じ内容をリアルのセミナーで語ろうとしたら1~2日かかるし、自分の労力が全然違うので1人あたり1,500円では到底まかなえないと思います。じゃあ、それをいくらにするかというときに、相場がないからみんな値付けができない。僕がやるとしたら2日で10万円以上にしますが、みんな「いやいや、10万円なんて……」ってなっちゃう。でも10万円以上の価値があると自分で思うのであれば、どんどん付ければいいんですよ。

――多くの人は自分が出すものの価値を低く見積もってしまう傾向が強いんですか?

ものすごく強いと思いますね。特に形がないものに関しては、日本人はなかなか値付けができない。逆に形があると、全然価値に見合わないような意味の分からない値付けをしますよね(笑)。「これだけの材料を使っているから、100万円!」とか。でもモノがないと自分のさじ加減になるので、全然値段を付けられなくなるんですよね……。

自分の仕事の価値に自信を持つには?

――「10万円の価値がある」と自分で思えない人もいると思うんです。自分が出すものに対して自信がないというか、謙遜しているというか。これも、お金に関する話を避けているからなのでしょうか? どうやったら自信が付けられますか。

「これくらいのものがいくらの価値だ」っていうのは決まってないので、ビジネス的に考えたら、相手がそれ以上の価値を認めればその値段でいいんですよね。例えば内容を完全に理解したら人生が変わるセミナーだったら、200万円でも構わないし、もしかしたら1,000万円でもいいかもしれない。

だけど、そういうことにお金を使う人がいることをまず自分で理解できていない。そもそも値付けができない人は大抵、自分でそういうお金を使ったことがないですね。その差は大きいです。高額のセミナーに参加すると、やっぱり不満が残って至らないところがすごく目に付くんですよ。それで、「あ、この程度で50万円とか設定してるのね」と思うと、じゃあ自分のやつも20万円はいけるかなって考えられようになります。

――経験を重ねていくことで、自分の出すものに対する価値の見定められるようになるんですね。

その上で、「あそこはこのくらいのレベルなんだから、自分はもっとやっていい」という自己肯定感を高めないといけないと思います。日本人は、自分の成果や商品がいくらいいものであっても、それ以上の値付けができないんですよね。日本社会において商品の値付けって、簡単に言うと"原材料費の積み上げ+社会的に認められている利益幅"というロジックに基づいて決まっているんです。

例えばICレコーダーだったら、「部品がいくらかかって、このくらい労力がかかって、デザインにこれくらいかかるから●●円」といった具合に「証拠積み上げ方式」みたいになっている。そうなると、値付けの感覚がなくなっちゃうんですよ。原材料費を積み上げて1万円っていうのと、1万円のメリットがあるから1万円っていうのは、全然尺度が違うわけです。フリーランスでもそういう考え方をしている人が多くて、「何時間かかるから●●円」などと自分の労力で設定するけど、自分の原稿がどのくらいすばらしいかについてはあんまり考えない。

――……心当たりが(笑)。

(笑)。時給換算している人が多いですよね。日本の社会がそうなってるから、世間的な尺度で考えるとそういう発想になってしまうんですよね。