――アイドル魂というアイドルグループのセンター・光彩(ひかり)の言葉です。一度は夢を諦めながらも再起しようとする人物に「もう、才能がないなんて言っちゃダメだよ」と声を掛けます。「才能って、何それ。そんなもののせいにしないでよ」というセリフも、押切さんご自身の言葉と重なったのですが。

3話「抱擁とハンカチーフ」では「才能」についてたくさん考えました。私の場合は、『CanCam』に入る前にお仕事が無くなってしまった時期がありました。アルバイトもしていましたし、誰からも認められないので「辞めたたほうがいいのかな」と考えたこともありました。でも、そんな時でも励ましてくれた人の言葉は、今でも胸の中にずっと残っています。

――「才能」と聞いて思うことは?

すべてを才能のせいにしてはいけないと思いますけど……やっぱり自分で信じるものが「才能」なんだと思います。人から「バカじゃないの?」と言われるくらいの自信でもいいんですけど、信じた先に何かあるかもしれないというのは忘れないようにしています。

――苦しい状況での周囲の優しさや気遣いは胸に染みますよね。

そうなんですよね。ただ、ピンチはチャンス。そういう時こそ自分を見つめ直す良い機会です。たとえハシゴを外されたとしても、自ら降りてまた登る。そう思っています。

――押切さんのようにマルチに活躍する方を目の当たりにすると、あらためて「才能とは?」と深く考えてしまいます。と同時に、「努力」もきっとそこにはあるんだろうなと。

大切なのは「努力する才能」なのかもしれないですね。天才と言われる人は努力を惜しまない方々がほとんどと聞きます。だからこそ、努力はすべての才能につながると、私は信じています。トーマス・エジソンが努力家だったということも小さい頃に学んでいるはずなのに、大人になるにつれて忘れがちになってしまったり、誰かが作った幸せに自分を当てはめようとしてしまうんですよね。だから、「自分ってこんなもんかな」って思い込んでしまう。今回の本を通してそこをほぐしてほしいと思いますし、私自身が掛けられたい言葉や思いも詰まっています。

――いろいろな思いが詰まった今回の作品。作家さんが"缶詰め"になる新潮社クラブにこもって書いたそうですね。歴史のある場所ですし、やっぱり作業は捗りますか?

目の前には編集の方がいらっしゃいますから、もちろん捗ります(笑)。装丁や帯文について、私への問い合わせに追われているのを見ると、とにかく早く書かなきゃと。自分の生活に戻るとさぼりがちになってしまいますし、コンビニに行くのも気が引けるような環境はとても集中できますよ(笑)。長い時で20時間ぐらいいたこともありました。

――都合よく日常でコツコツ……とはいかないわけですね。

やっていたんですけど、「もっと練りたい」という欲が出てきてしまって。

――今月17日放送の『ナカイの窓』(日本テレビ系)で、ゲストの石田衣良さんや湊かなえさんは、作品の「生みの苦しみ」について語っていらっしゃいました。

私も見ました! ただ、私はまだ第一歩を踏み出したくらいなので、苦しくて当たり前だと思っていますし、逃げないでやり続けることが数年後にもっと良いことに繋がると信じて向き合っています。

それでも、今回は短編集だったので、「やっとこじらせ女から解放された……」という区切りが前回と違ってありました(笑)。でも……書きはじめはスッキリしていますが、展開が思い浮かばなかった時や矛盾が生じるところがあると頭を抱えてしまいます。

――書くことに没頭して変化したことはありましたか。

間食がすごく増えました。歯に詰め物があって、歯医者さんからガムを禁止されていたんですが、「食べちゃった!」と後で気づいたりしたことも(笑)。そういえば、『ナカイの窓』でも湊かなえさんが作品によってガムの味を変えるっておっしゃってましたね!

――味の変化は独特ですよね。私も驚きました。

体の変化はきっと大切なことなんですね。運動をしたり、ストレッチをしたり、お風呂に入ったりすると良い気分転換になります。音楽をかけることもあって、明るいシーンでアップテンポ、暗いシーンでクラシックや切ない曲を流しました。新潮社クラブでは、最後の方はタイムアタック(笑)。タイマーを15分間隔でかけて、追い込んでいました。