製品やサービス購入に至るまでの行動において、人はオフライン/オンライン、Web/モバイルと自由に行き来し、人とブランドとのつながりはより複雑に変化している。このようにデジタル環境が複雑性を増大する中、ソーシャルメディアはWebと同様に顧客エンゲージメントを獲得し、ブランドのファンとの関係を深めるための基盤として活用できるようになってきたことを前編で解説した。

後編では、前編で紹介したSalesforce.comの調査結果において、最も日本企業の関心が高かったソーシャルメディア・リスニングを中心に、マーケターがソーシャルメディアからどのように顧客インサイトを得るべきかについて考えてみたい。

日本企業のマーケターが予算を増額する分野の上位5項目 資料:「2015 State of Marketing」

ソーシャルメディア・リスニングとは?

ソーシャルメディア・リスニングは、ソーシャルメディア・モニタリングとも呼ばれ、Facebook、LinkedIn、Twitter、Pinterestに代表されるソーシャルメディアに加え、ブログサイト、掲示板、動画サイトも含むさまざまなデジタルメディアでやり取りされるステークホルダーの会話の内容から、ブランドに関係する意味のあるデータを抽出し、可視化したものを基に分析し、インサイトを導き出すまでの一連のプロセスである。

マーケターがソーシャルメディア・リスニングを行う際、その目的は主として顧客インサイトを得ることにあるが、企業でのソーシャルメディア・リスニングの適用範囲は、マーケティング業務に限らず広範囲にわたる。それは企業が重視するべきステークホルダーが多岐にわたっていることと大きな関係がある。

大企業の場合、ステークホルダーには、顧客に限らず、ビジネスパートナーや従業員もいれば、投資家もいる。また、その周辺のブランドのファンや、これから社員として雇用されるかもしれない学生もステークホルダーに含まれる。したがって、ソーシャルメディア・リスニングは、マーケティングのほか、セールス、カスタマーサービスの改善や、レピュテーションリスク低減のためのマネジメントなど、企業ブランド価値を維持するためのあらゆるステークホルダーとの長期的関係のマネジメントのための手段と考えることもできる。

ソーシャルメディア・リスニングにどう取り組むべきか?

では、マーケターはどのようにソーシャルメディア・リスニングを行うべきだろうか。

デジタル・メディアでやり取りされるデータはテキスト形式だけでなく、音声や動画もあり、データ容量が非常に大きい。これらの膨大なデータは非構造化データと呼ばれ、企業がビジネスアプリケーションで利用するリレーショナルデータベースに即した構造化データではない。そのため、これらのデータからインサイトを得ようとすると、通常のレポーティング・ツールやアナリティクス・ソフトウェアでは難しく、テキストマイニングのような非構造化データの処理に適したソフトウェア、もしくはソフトウェアでは難しい詳細な分析を行うための専門サービスが必要になる。

また、前述した通り、企業規模が大きくなるほどステークホルダーが増加するため、ソフトウェア・サービスへの要件はより厳しいものになる。そこで、マーケターを始めとするソーシャルメディア運営担当者の負担が増えることなく、意思決定を支援してくれるようなソフトウェアやサービスを選ぶための要件を3つに分けて考えてみた。

多彩なデータソースへの対応

顧客インサイトを得るには、多種多様なデータソースからデータを収集できるようになっていることが望ましい。事業内容によっては、InstagramやPinterestをサポートしているなど、ソーシャルメディアの種類によって、ソフトウェア製品を選択する必要が生じるだろう。また、ソーシャルメディアだけでなく、Webサイトのデータも集約し、データを処理可能な状態にする。「ソーシャルメディア」と製品の名前にはあっても、ソーシャルメディア専用ではなく、正確には非構造化データに特化したソフトウェア・サービスである。

言語処理アルゴリズム

テキストデータを対象とする際、コメントの中のコンテキスト(文脈)を解釈し、対象に対する感情を判断する「センチメント分析」と呼ばれる作業を行う。マーケターとしては、「肯定的」「中立的」「否定的」といった単純化した分析にとどまらず、ブランドにどのようなイメージを抱いているかを詳細に把握したい。細かなニュアンスを学習するような優れた言語処理アルゴリズムを採用しているソフトウェアを選択したいところだ。また、グローバル規模で事業を展開している企業の場合、日本語は当然のこと、最低でも英語と中国語をサポートしてほしいと考えるだろう。

レポーティング環境

トレンドは時間の経過に即して変化する。マーケターとしては、一定期間における感情の優位・劣位にとどまることなく、ブランドに対する感情がどのように変化しているかを把握したい。そのためには、リアルタイムなデータ収集環境が必要だ。また、ソーシャルメディア・リスニングはマーケターの業務を効率化するというよりも、その意思決定を支援することを主眼としている。意思決定の材料を視覚的にわかりやすく提示するグラフィカルなインタフェースが用意されているかどうかも判断材料となるだろう。