数々の困難を乗り越えてきたと自負する孫正義社長。その苦労のほどを自らの髪型に例えてアピール

ソフトバンクは2月10日、2016年3月期の第3四半期(2015年10~12月期)決算に関する説明会を開催した。第1~3四半期までの前年同期比での連結営業成績は売り上げが8%増、EBITDA(減価償却前営業利益)が24%増、営業利益が18%増と引き続き伸びている。懸案事項は引き続き米国の携帯電話事業であるSprintの業績で、今回の時間の大部分がこの説明に費やされた。

携帯電話事業の改善はコスト削減効果で

国内の携帯電話事業は、営業利益が前年同期比8%増の一方で、売り上げと累計契約者数はほぼ横ばいか微増にとどまっている。以前までの伸びはみられず、ほぼ飽和に近い状況に近付いているが、こうした利益増の背景にはコスト削減がある。

音声ARPU (1利用者あたりの平均売上)は減少傾向が見られる一方で、データ通信収入が増えて安定傾向にあり、事業的にはほぼ落ち着いた状態となっている。

ただ、ライバルとなるNTTドコモやKDDIは固定回線を合わせたセット売り戦略を強化しつつあり、ソフトバンクの孫正義社長は解約率がやや上昇傾向にあることを警戒しているという。そのため、光や電力とのバンドルに注力しつつ、顧客満足度を改善することで、既存ユーザーのつなぎとめと解約率の押し下げに繋げたい考えだ。

現在のソフトバンクは事業資産と投資資産の両軸で成り立っている

現在の事業資産筆頭といえば国内の通信事業。飽和といわれて久しい状況でも営業利益は伸び続けており、今後は光や電力とのバンドルを推進しつつ解約率を下げていくのが課題という

そして懸念となっているSprintだが、孫氏は「T-Mobile買収による米国戦略が破綻したときにはSprintを売却したくてしょうがなかった。だが売り先がない以上、自ら改善していくしかなかった」と本心を吐露しつつも、過去数年にわたって実施してきた事業改善策とその成果を紹介している。

Sprintの課題と対策はいくつかあるが、そのポイントは「解約率を改善しつつ優良顧客をつなぎとめ、コスト削減を中心に利益体質にしていく」ということに集約される。

そして今回の決算説明会で時間の大部分を割いてアピールしたのがSprintの業績改善。一時期は米国4大キャリアで唯一純増がマイナスに落ち込んで苦しんだが、事業的には安定しつつあり、主にコスト削減効果で利益が改善しつつある

実際、過去1年半ほどはSprintサービス(ポストペイド)からの顧客流出はほぼ止まっており、ホールセール(MVNOなど)も含めればSprintのネットワーク全体で増加傾向にある。ただ、売り上げそのものは若干伸びて安定しているものの1年ほど横ばい状態が続いており、今後は加入者を増やしつつも赤字体質を改善しなければならない。

売上高がほぼ横ばいなのに対し、営業利益が改善傾向にあるのは大規模なコスト削減効果によるもの

Sprintが業績反転に至るまでの4つのポイント

孫氏によれば、Sprint CEOにMarcelo Claure氏が就任するまでは「非常に無駄が多かった」とのことで、コスト削減を中心に徹底的な無駄の排除を行いつつ、かつ解約率改善のためにネットワーク投資を行いつつも、アンテナの設置コストなどの見直しで全体の利益率を改善していく必要があったという。

この効果もあったのか、過去3年で最大となるポストペイド契約者数増となったようだ。また、利益体質の改善を進める上でもう1つ重要なポイントが「優良顧客の囲い込み」であり、ポストペイドで毎月一定の料金を支払う客をつなぎ止めることが重要だ。

当たり前のようだが、孫氏によれば「サブプライムのお客ではなく、きちんと料金を払ってくれるお客さんを集めることが重要だが、今まではこれができていなかった。Marcelo以降はこうしたお客さんに来ていただけるよう選別している」と述べており、これが収益の安定化につながったといえる。

実際に米国キャリアの動向を見ていると、Verizon WirelessとAT&Tという大手2社にこうした優良顧客が集まる一方で、SprintやT-Mobileなどの3番手以降のキャリアは、月額の基本料金引き下げや各種キャンペーンなどで対抗し、顧客を集めるしかなかった。Sprintは大手の中でも基本料が安いグループに分けられ、それがARPUにも現れている。

また、Sprint CEOにMarcelo Claure氏が就任して以降は利益率の高い優良顧客をポストペイド契約に積極的に取り込むようにしており、こうした効果も大きい

直近の四半期での解約率は1.62%とSprint史上過去最低にまで下げることができたという。おそらくSprintの問題の本質の1つがこの部分にあったと考えられる

最近でこそT-Mobileは、各種戦略を立て続けに打ち出すことでSprintを上回る勢いでユーザーを集めているものの、ネットワーク投資が追いついていないという意見もあり、この点がVerizonやAT&Tに比べてウィークポイントともいわれる。一方のSprintもネットワークについては引き続き改善が必要であり、新規や転入顧客獲得のためにも継続的な投資が求められるだろう。孫氏はSprintのネットワークに自信を持っていると強弁するが、もし改善が本物であれば、遠からず業績として現れるはずだ。

業績改善で最も効果が大きかったものの1つがOPEX (Operating Expenditure: 運用コスト)の削減。750項目にわたる運用コストについて、聖域なき削減を実行したという

賛否両論あるが、4大キャリアでの都市部のLTEダウンロード速度測定を行ったところ、Sprintがトップになったという調査報告。最近顧客が急増したT-Mobileが顕著に品質が落ちているところなど、ある程度参考値となるだろう