京極夏彦がデザインした祭壇。

昨年年11月に逝去した水木しげるを偲ぶ「水木しげるサン お別れの会」が、本日1月31日に東京・青山葬儀所にて行われ、発起人代表を荒俣宏が、喪主を水木の妻・武良布枝が務めた。

会場に設置された祭壇は、生前より水木と親交が深かった京極夏彦がデザイン。水木の短編マンガ「丸い輪の世界」をイメージした輪に笑顔の遺影が飾られ、それを一回り大きく囲んだ輪の中に「ゲゲゲの鬼太郎」「悪魔くん」「河童の三平」「コケカキイキイ」のイラストが並ぶ。遺影の下には故郷である島根半島の山と大海原をイメージした菊が、左右には水木が太平洋戦争時に出征したラバウルのジャングルをイメージした南国の花が配された。

会に先立ち、京極、荒俣、布枝夫人が取材に応じる。どんな家庭だったかと聞かれた布枝夫人は、「別に何が合っても衒うこともなく、どなたにお会いするときでも自然体でやってました。このたび遺影にて、自然体すぎる写真を提供したことを反省しております」と笑顔を見せる。水木の弟子として知られる荒俣は、「話していると幸せにさせてくれる人で、『幸せ菌』をばらまいているのではないかと思うくらい。水木さんは日本の宝のひとつ」と別れを惜しんだ。京極は祭壇について「中央の丸い輪が開いている間は、向こう側の世界と行き来ができるんです。先生はとりあえずあちら側にいますけど、輪が開いているうちは先生に会える。皆さんには向こう側へ話しかけてほしい」とコメント。さらに水木のことは「まだ亡くなっていないですね。人間としてはご逝去されましたけれど、生前からそうでない部分が非常に多い方だったので」とも語った。最後に布枝夫人は、「かけてあげたい言葉は?」と問われると「53年間、ありがとうございました。まもなく私もついていきますので、あの世でもよろしくお願いします」と優しい表情でメッセージを送った。

関係者のみで行われた「お別れの会」第1部では、京極による挨拶のあと、荒俣が水木の功績を紹介。続いて、水木とは貸本時代からの付き合いだというさいとう・たかをが登壇し、「ご自分の感性をうまく料理し、独自の世界観を作り出す手腕は天才的で、計算して絞りだすように作品を創ってきた私にとっては羨ましい才能でした」と、自身と比較しながら水木への思いを語る。TVアニメ「ゲゲゲの鬼太郎」の1・2作目で鬼太郎役を務めた野沢雅子は「そちらでごゆっくりとお休みになって、そしてまた、たくさんの素晴らしい作品を、たくさんたくさん描いていってください。私は鬼太郎くんと出会って本当に、本当に幸せでした」と感謝した。47年前、ガロの編集部に出入りしていた頃から親交があるという編集者の松田哲夫は、別れの言葉で「初対面の僕に向かって、『殺されますよ』『頭がからっぽになりますよ』と言ってきた」という、多忙だった頃の水木のエピソードを披露。さらに「水木さんにとって『死ぬ』ということは、広大な水木ワールドの中でちょっと引っ越しをした、そんな軽い気持ちなのかもしれませんね」と続けた。

最後に、布枝夫人があらためて来場者へ挨拶。「皆様に認めていただき、温かく支えていただいたからこそ今日に至ったと思います」と感謝を述べ、「まだまだ頭の中には構想があったはずです。それらが日の目を見なかったことはとても残念」「とはいえ主人がいる、あちらの世界にはきっとマンガのタネがたくさんあって、たくさんストーリーを思いついているでしょう。だって生前から妖怪やあの世とは親しかったのですから。発表できなかった作品だけでなく、新しいマンガをあの世の読者に読んでもらっているかもしれません。きっとそうだと思います。生前は水木しげるを温かく見守ってくださってありがとうございました。今、主人もきっとこの会場にいて、皆様に感謝申し上げてることと思います」と締めくくった。

終了後の囲み取材には、中川翔子、さいとう・たかを、野沢雅子、松田哲夫、浅野忠信、ウエンツ瑛士、向井理、松下奈緒が順に出席。実写映画「ゲゲゲの鬼太郎」「ゲゲゲの鬼太郎 千年呪い歌」で鬼太郎を演じたウエンツは「神妙な面持ちでいる僕らをどこかでケラケラ笑っているような、そんな声が聞こえてきそうな会でした。(水木には)ゆっくりと休んでいただくと同時に、向こうでたくさんの妖怪たちと戯れてほしいなと思います」とコメント。TVドラマ「ゲゲゲの女房」で水木夫妻を演じた向井理、松下奈緒はそれぞれ「本当に自由な人だったと思う。あちらの世界で、好きなものを食べて、飲んでほしい」「水木しげるさんの奥様に一瞬でもなれたのは、今でも『素敵な経験をさせてもらった』という気持ち」と涙ながらに述べた。

この第1部終了後には、誰でも参加できる第2部も執り行われ、多くのファンが参加。献花台に花を供えたほか、水木へメッセージを送ることができるという妖怪ポストに手紙を投函する姿も多く見られた。