(左から)上條淳士、遠藤ミチロウ。 (c) 2015 SHIMAFILMS

「To-y」「SEX」で知られる上條淳士が、映画「お母さん、いい加減あなたの顔は忘れてしまいました」の公開を記念して行われたイベントに登壇。去る1月29日、東京・新宿K’s cinemaにて、監督を務めた遠藤ミチロウとトークを繰り広げた。

映画「お母さん、いい加減あなたの顔は忘れてしまいました」は遠藤率いるパンクバンド、ザ・スターリンの復活や、東日本大震災を受けて立ち上げた「プロジェクトFUKUSHIMA!」など、遠藤の2011年の活動を追ったロードムービー。タイトルは遠藤の同名楽曲から付けられた。

今作を「ドキュメントというカテゴリだけではなく、映画としてすごく面白かった」と語る上條は、「よくできたハリウッド映画っていうのは、100人いたら98人ぐらいの人がだいたい同じところを面白がるものだと思うんですけど、この映画は1人ひとり持ち帰るものがちょっと違うんじゃないかと思って」と感想を述べる。続けて「この映画は技術的にもうまいなと思ったんです。遠藤ミチロウとザ・スターリンの活動を観るのは初めてという人もいると思うんですけど、絶対ライブが観たくなるところで切られていて。すごい企みだなと思いました」と遠藤に映画の感想を伝えた。

遠藤は「最初は僕の旅の姿だけを撮ろうと思っていたので、実家も出す予定はなかったんです。だけど震災が起きたことをきっかけに(故郷の)福島に向かわざるを得なくなった。『しょうがない、全部出そう』と。もうケツの穴まで見せるか、みたいな感じでしたね」と当時を振り返る。話を聞いた上條は「ミチロウさんを知ってる人からすると、お母さんとの対話のシーンはめちゃめちゃ貴重な映像だと思うんです。だけどズルいなと思うのは、なんかかわいいじゃないですか。息子として」とコメント。遠藤が思わず照れ笑いを浮かべると、会場からも笑いが起こった。

また上條は「ザ・スターリンの頃は、一般的には見た目とかパフォーマンスが怖いって思われてたと思うんですけど、僕は『この人はこれを冷静にやってるみたいで怖いな』と思っていて」と告白。「狂ってないというか、『歌を伝えたい』ということは全然ブレてない」と感じていたことを話すと、遠藤も「僕もパフォーマンスがやりたくて歌をうたっていたわけじゃなくて、歌っていくなかでパフォーマンスも一緒にやるのが面白いなと思ったという、成り行きだったんです。だから物を投げるときもマイクは離していなくて。“死んでもマイクは離さない”っていう思いはあったんです」と信念を口にする。上條は「絵でも音楽でも、狂気を表現しようとする人っていうのは、冷静じゃないとできない気がするんですよね。そうじゃないとただ暴れてるだけとか、無茶苦茶にやってるだけになる」と考えを明かした。

トークの後半は上條の作品「To-y」の話題に。上條が「(当時の日本のパンクを)そのままマンガで描きたかった」と話すと、「(バンド名の)ペニシリン・ショックとか、あの時代のパンクバンドが付けそうな名前ですよね。(イベントタイトルの)『帝王切開』とか……」と例を挙げる。すると「『帝王切開』はザ・スターリンのライブのタイトルからもらったんです」と上條が答えると、遠藤は「えっ、そんなの付けてました?全然覚えてない(笑)。」と驚きの表情を浮かべ、観客の笑いを誘った。

イベント終了のアナウンスに会場から名残を惜しむ声が上がると、最後に上條と遠藤は「続きをどこかでやりたい」「また別な機会にいろいろと話せる場を作りたいと思います」と観客に約束し、イベントは幕を閉じた。映画「お母さん、いい加減あなたの顔は忘れてしまいました」は東京・新宿K’s cinemaにて上映中。全国の劇場でも順次公開される。また全5巻にて刊行される、上條の「To-y 30th Anniversary Edition」は現在2巻まで発売中だ。

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