オンライン学習サービスの「スクー」はこのほど、ブルーボトルコーヒー青山カフェにおいて「ブルーボトルコーヒーのブランド戦略」と題した授業の生放送を実施。ブルーボトルコーヒージャパンの代表社員/取締役として、日本における事業立ち上げに携わった井川沙紀氏が、同社のブランド戦略を元に「ブランドの本質」について語った。

ブルーボトルコーヒージャパンの代表社員/取締役である井川沙紀氏

農園から一杯のコーヒーを提供するまで、そのプロセスを徹底的に管理する

ブルーボトルコーヒーは、2002年にジェームス・フリーマン氏が米国で創業。サンフランシスコ、ニューヨーク、ロサンゼルスと東京で23店舗を運営している。創業当時はフリーマン氏が自身で買い付けてきたコーヒー豆を自宅の裏庭にあるガレージで焙煎し、マーケットで販売していたこともあるそうで、その様子から「コーヒー界のApple」とも呼ばれることも。日本では、2015年2月に1号店をオープンしたが、清澄白河を選んだのは同社の本社がある米国オークランドに雰囲気が似ていることが理由なのだという。

井川氏は、米国で生まれたブランドを日本で展開する上で、「重視したのは、"こだわりにこだわる"ということです。創業者であるジェームス・フリーマンが考えた、美味しいコーヒーやコーヒーを楽しむ空間作りへの細部にわたるこだわりを日本でも徹底しようと考えました」と説明する。

「こだわりの1つとして、ブルーボトルコーヒーには"SEED TO CUP"という考え方があります。コーヒー豆(生豆)の生産現場から焙煎、提供までのすべてのプロセスに、責任とこだわりをもってコーヒーを提供していくというものです」(井川氏)

同社では、季節ごとコーヒーの旬を吟味し、バイヤーがそのシーズンの最も美味しいコーヒー豆を買い付けているほか、焙煎の際にはコーヒー豆の種類に応じたレシピを用意し、焙煎の専門家は豆のオリジナリティや個性を引き出すための焙煎方法についてデータを取りながら研究することで、日々レシピを進化させているのだという。

また、店舗でコーヒーを淹れて提供する際のプロセスも厳格に決められており、バリスタの育成も徹底して行っている。「野菜を作って店舗で出すのに比べ、コーヒーは、提供するまでの工程と関わる人の数が非常に多い。このプロセスを最終的に良くするのもダメにするも、一杯のコーヒーを表現するバリスタ次第というところがあるので、そこを徹底的に管理してバリスタが自信をもってコーヒーを提供できるようにしています」と井川氏は話す。

店舗における豆の挽き方、コーヒーの淹れ方も厳格に決められている

同時に、こういったこだわりだけでなく、ブランドの信用を生み出し維持するために「品質管理」も必要不可欠なものだ。

この点について井川氏は、「ブルーボトルコーヒーでは、豆の焙煎を行う店舗において"カッピング"というテイスティング作業を毎日行い、焙煎したコーヒー豆の香りや味をスコアリングして基準に適合しているかをチェックしています。米国にて品質管理を行う専門家が、日本で販売される豆の味を責任を持って管理・監督するために来日したといっても過言ではありません」と説明。チェックの結果、基準に適合しなかった豆は、店頭には絶対に出さないという徹底した管理を行っている。

加えて、「品質管理の専門家を置くこと自体珍しいと言われますが、私たちは品質を厳格に維持管理することがビジネスにおいて最も重要なことだと考えています」と井川氏。同社では、焙煎担当とカッピング担当は、どうすればベストな香りや味わいを実現できるかを、日々ディスカッションしながら進化を続けているという。

共通のコンセプトを持たない、地域に合わせた店舗を作るワケ

また、コーヒーを楽しむための空間作りについても、細部に及ぶこだわりを持っている。同社の店舗は、その特徴として、全23店舗でそれぞれ店舗の場所に応じたデザインを採用し、共通のコンセプトを持たない。「清澄白河カフェと青山カフェを比べても、内装のカラーイメージ、家具の種類や配置、キッチンの位置などは店舗によってすべて違います。一杯のコーヒーを美味しく楽しんでもらうために、その地域の顧客ニーズに合わせてゼロから店舗作りを考えています」と井川氏は説明する。

それぞれの店舗は顧客ニーズに合わせてゼロからデザインする

たとえば大手チェーンなどと比較すると、ブランドの認知を浸透させたいと考える場合には、一般的に、商品や店舗のデザインを統一してアイデンティティを持たせるのが定石だ。しかし、ブルーボトルコーヒーではあえてそれをせず、出店する地域の雰囲気や顧客層に合わせて、最も快適にコーヒーを楽しめる雰囲気を考える。ブランドが顧客をリードするのではなく、顧客体験を第一に考えた戦略だと言えるだろう。

「例えば、青山カフェでは、ほかのチェーン店が選びそうな大通り沿いではなく、あえて路地裏で建物の2階という"店舗出店では選ばないような場所"を選びました。窓から見える木々の緑が気に入ったのが理由で、店舗の壁の色なども、すべてこの緑を引き立たせることを意識してグレーの色にしたんです」(井川氏)

ブランドを作り出すためには「変えない勇気」が必要

そのほか、井川氏はブランドを作る上で重視している点として「変えない勇気」を挙げた。

井川氏によると、ブルーボトルコーヒーが日本に進出する際に、(日本企業から業務提携の相談もあったそうなのだが)あえて米国本社の直営店舗として展開するという選択をした。パートナーを希望する企業からは、日本の市場に合わせ、米国の方法と変えるべき点の提案なども受けたが、そこには創業者のこだわっている部分も含まれていた。であるならば、たとえ失敗してもブルーボトルのこだわりや大事にしていることを変えずに進めたいという考えに至ったのだという。

では、同社はどのような点について"変えない"と決めたのか。

一例として井川氏は、コーヒーを焙煎する方法を挙げ、「正直、日本人は深煎りのコーヒーに慣れているため、"もっと深煎りにすべき"という意見も頂いていました。ですが、ブルーボトルコーヒーではコーヒー豆のキャラクターに合わせた焙煎をすることにこだわっているので、結果的に浅炒りのコーヒーも出すんですよね。豆が持つそれぞれの特徴を楽しんでもらうためには浅炒りのほうが適切な場合もあるんです」と話す。

顧客の味の好みに合わせて焙煎方法を考えるのでなく、コーヒー豆の良さを引き出すことを第一に考えて焙煎方法を考えるというは、変えることができないブルーボトルのこだわりだ。そして、こうしたこだわりを理解してもらうためにも、顧客への説明や雰囲気作りをトライしていかなければならないのだという。

また井川氏は、ドリップコーヒーの量が多くワンサイズしかない理由として、「時間の経過とともに変化していく味わいを楽しんでほしいという創業者のこだわりがある」と話す。

「華やかでフルーティーな味わいのコーヒー豆は、熱々の湯を淹れてから冷めていくに連れて味わいが変化していくのが特徴。その変化を温度変化と共に、長い時間を掛けて味わってもらうことも楽しみ方の一つと考えたのです。今の時代、コーヒーはボタンひとつで飲める手軽なものになりましたが、私たちは生産者が長い時間かけて育てたコーヒー豆を収穫し、焙煎し、一杯のコーヒーにするという長いプロセスを間近で見ているので、その一杯のコーヒーが持つ味わいの変化をしっかり伝えていくことも役目だと思っています」(井川氏)

「ブルーボトルのこだわりをブームにするのではなく文化にしたい」と井川氏

井川氏は最後に、今後の事業展開に向けた抱負として「日本でのオープン以来、多くの方に来店してもらっているものの、まだまだ"上陸したブランド"という話題性で初めて来店する人が多いのが現状です。これを一過性のブームにするのではなく、ブルーボトルのこだわりを理解してもらい、文化として育てていくことが重要だと考えています」と語った。

現在は2店舗での展開だが、今後は3月25日に新宿、次いで六本木などへの出店を予定しており、顧客に"こだわり"を伝える機会を増やしていく。ブルーボトルコーヒーの挑戦は、まだ始まったばかりだ。

なお、同記事の内容は、録画授業としてスクーにて公開されている。
ご覧になりたい方は、こちらよりアクセスすることが可能だ。