情報を発信してもなかなか伝わらない……という悩みに、正面から向き合った本が出た。それが、さとなおさんこと佐藤尚之さん著の『明日のプランニング』(講談社現代新書/840円+税)だ。「情報砂一時代」と称する生活者の現状について、また佐藤さんご自身のキャリアについて、話を伺った。

佐藤尚之
1961年東京都生まれ。株式会社電通にてCMプランナーやウェブプランナー、コミュニケーション・デザイナーなどを経て、2011年に独立。現在はコミュニケーション・ディレクター(株式会社ツナグ代表)。1995年より個人サイト「www.さとなお.com」を運営。『明日の広告』『明日のコミュニケーション』(ともにアスキー新書)など著書多数。

今、情報は世界中の砂浜の砂粒より多い

――今回、どういう理由でこのような本を書かれたのでしょうか?

最近、コンテンツが「伝わらない」という人がすごい増えているんです。バズを狙うにしても消耗戦になってしまっていて、手応えも実感もないし、すごく疲れてしまう、と。原因を考えていくと、いわゆる"生活者"が二極化しているためではないかということが、わかってきました。

現在、常に情報に触れている人たちは、1.8ゼタバイトの情報が流れている中で生きていると言われています。世界の砂浜の砂粒の数が1ゼタバイトと言われているので、それよりもずっと多く情報が流れているということになりますよね。

もう一方で、PCでの検索を月に1度もしない人が、7,000万人程度いるといいます。つまり国民の半分以上はあまり情報に触れていない人たちなんです。都会に住んでいるマーケターたちは、こういった二極化をちゃんと把握できていないという現状があります。

――"情報に触れている人たち"の方だけを向いてしまうのですね

そうですね。でも、"情報にすごく触れてる人たち"にはもう露出がきかなくなっています。彼らが晒されている環境のことを僕は"情報砂の一粒時代"(砂一時代)と呼んでいるんですが、こういう時代を生きる人たちに対しては、バズも、いいねも、RTも、シェアも、ほとんど無視されてしまう。しかも、情報にあまり触れていない"砂一以前"の時代を生きる人たちは、それほどネットを見ていない。そうするともう、ネットでがんばってもがんばってもむなしい、効果が感じられない……という方に行くと思うんですよね。

だから、そこを見直していきましょう。砂一以前の人に対してはマスメディアを使った今までの方法で、砂一時代の人については、ファンベースでやっていきましょう、ということを詳しく書いているのが今回の本なんです。

時代が変わってきている

――いつごろから"砂一時代"の考え方を提唱するようになったのですか?

"砂一時代"というネーミングをつけたのは、2年前くらいですね。「生活者が二極化しているかも」と思い始めたのも、2年前くらいです。それまでも、時代が変わってきてるぞという意識はあったのですが、整理がついたのはこの1年ほどです。

――周囲の反応はいかがですか

いま、相手を切り分けようと言っているマーケターは、あまりいないんですよ。更に、こちらは今まで通り、こちらにおいては露出もきかない……と言っている人はほとんどいません。ただ、ちゃんと言葉に表して指摘している人がいなかっただけで、名だたるクリエイターたちは皆、同じ方向に来ているように感じます。

切り分けについて考えているマーケターがいないのは、皆ネットを見ながら生活している"砂一時代"の人であることが大きいですね。露出を増やせば伝わるのは砂一以前の人たちで、砂一時代の人たちには露出増が効かない。それなのに、ネットでの露出を増やそうとして「もっとバズらせろ」と言ってしまうと、消耗戦にしかならないんです。

――名だたるクリエイターの方も同じ方向にいるのは心強いですね

現場のひとはその通りだというけど、でも役員がね、という話にはなります(笑)。ただ、それはしょうがないですから。ある考え方が浸透するのには、時間がかかるんじゃないかと思います。それに、僕の方が正しいかどうかも、わかりません。ただ、僕はこれしか解が見つかりませんでした。