iPhoneの進化は、本連載の主要テーマであるが、その進化に対して我々がスマートフォンに抱く要望や不満はいっこうに変化していない。

例を挙げるなら、バッテリーの持続時間、カメラの向上、軽量化、薄型化、画面の拡大、落としても画面が割れないこと、防塵防滴もしくは防水、通信速度の向上、通信料金の低減、購入金額の低減…。相反する項目もあるし、端末そのものの問題ではないものも含まれるが、スマートフォンに対する要望は、このあたりに集約されると思う。

また、画面サイズに関する議論も存在する。大きければ大きい程よい、というわけではない。既に4.7インチ、5.5インチへと拡大したiPhoneだが、4.7インチでは大きすぎると考えるユーザーも、米国には2割ほどおり、4インチスマートフォンの登場も期待されているのだ(この件については以前にまとめた通りだ)。

Appleは前述のようなユーザーの要望を少しずつ叶えながらも、世間をあっと言わせる、驚かれ話題になるような新機能やデザインを、新型iPhoneで実現しなければならないという至上命令を背負っている。

これまでiPhone 3G以降、偶数の年にメジャーバージョンアップ、奇数の年にマイナーチェンジというサイクルを維持してきた。2015年は奇数だったので、iPhone 6シリーズの改訂版として、iPhone 6sをリリースした。

メジャーバージョンアップでは本体のデザインを刷新し、マイナーチェンジではデザインこそ変わらないが、内蔵するテクノロジーを飛躍的に高めたり、新しいインターフェイスにチャレンジしてきた。奇数の年に追加された新しいインターフェイスは、iPhone 4SのSiri、iPhone 5sのTouch ID、iPhone 6sの3D Touchが挙げられる。 こうした新しいインターフェイスの活用と定着は、それに慣れたユーザーが、他のデバイスを不便に感じるようになるほど、じわじわとロイヤリティを高める役割を発揮してくれる。

ただ、やはり外観デザインを刷新したほうが、あっと言わせる方が新鮮さもあるし、何より「進化」をわかりやすく伝えることができる。 感性に訴えかける意匠の新しさに加えて、薄くなった、小さくなった、軽くなったという、明らかな「改良」を数字で示すはずだ。Appleが新製品発表イベントで、新型iPhoneをどのようにプレゼンテーションするかを振り返えれば、おなじみのパターンを見出せる。

その一方で、数字が悪くなった点は一切触れていない。iPhone 6s Plusは、前の機種より0.2mm厚くなり、20g重量が増している。実際に使っていると、結構はっきりと「重くなったな」と感じるほどだ。3D Touchの搭載など、新しいテクノロジーの搭載によるものと考えられるが、感覚が変わるほどの重量増が必要だったのか、という疑問も残る。

少しうがった見方をすれば、大型化したスマートフォンを軽量化し続けるのは難しいため、一度重量を増加させ、次のiPhoneでは「以前よりもこんなに軽く、薄くなった」というアピールを再び展開できるようにするためじゃないか、とも考えられる。確かに、3D Touchのディスプレイの薄型化、軽量化は、インターフェイスの技術革新そのものであり、エンジニアリングの努力を見せつけるのにも良い機会であると言えよう。