Appleは2012年に、iPhone 5cというスマートフォンをリリースしているが、お世辞にも成功したデバイスとは言えなかった。

カラフルでポップな筐体は、ポリカーボネイトながら、艶やかで精巧な作りだった。どれくらい精巧かというと、光沢ある背面に蛍光灯を映してもその光はビシッとまっすぐだった。当たり前のことのように思えるが、電池交換用の裏ブタを採用したデバイスでは、こうはいかなかったのだ。

しかしそんな作りの良さでも、人気があったのはiPhone 5sの方だった。高性能で高級感ある金属ボディのデバイスがプラス100ドルで手に入るのであれば、そちらを選んでいたのだ。64ビットではないプロセッサ、同等価格のAndroidスマートフォンより劣るカメラ、そして2年契約で99ドルという中途半端な価格が、iPhone 5cがうまくいかなかった理由として考えられる。

こうした失敗を経験していれば、2016年初頭に、噂されているiPhone 6cは、その同じ轍を踏まない4インチモデルに仕上げることはさほど難しいことではないだろう。最新のプロセッサ、金属ボディ、高性能カメラ、NFCなどを備えて、iPhoneの最新の体験を押さえたものになるはずだ。iPhone 6sと同レベルのスペックを実現できれば、小さなサイズのパワフルなスマートフォンが欲しい、という20%の人々を取り込むことができるだろう。イメージとしては、2015年に発売されたiPod touchに電話の機能がついたようなモデルとなるのではないだろうか。価格は、前回と変わらない金額にするかもしれないが。

2015年に発売された第6世代iPod touch。4インチサイズは手になじみ、「電話」としては最適なサイズであり続けるのではないか、と思う。こうした高い質感の小型スマートフォンを待っているの20%の人を満足させる製品は登場するのだろうか

問題は途上国。もちろん薄利多売の競争に巻き込まれる必要はなく、途上国において、スマートフォン市場が成熟し、高級モデルへのニーズが高まるのを「待てば」成功するのではないか、と考えている。もちろん、Appleのキャッシュを考えれば、それだけの時間まちかまえるだけの余裕があることは明白だろう。

松村太郎(まつむらたろう)
1980年生まれ・米国カリフォルニア州バークレー在住のジャーナリスト・著者。慶應義塾大学政策・メディア研究科修士課程修了。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。近著に「LinkedInスタートブック」(日経BP刊)、「スマートフォン新時代」(NTT出版刊)、「ソーシャルラーニング入門」(日経BP刊)など。ウェブサイトはこちら / Twitter @taromatsumura