東京大学と科学技術振興機構(JST)は12月1日、磁性絶縁体の金属-絶縁体転移が微小磁場でも制御可能であることを示したと発表した。

同成果は、東京大学 物性研究所のTian Zhaoming 日本学術振興会外国人特別研究員、小濱芳允 特任助教、冨田崇弘 研究員、金道浩一 教授、中辻知 准教授らの研究グループによるもので、11月30日付けの英科学誌「Nature Physics」オンライン版に掲載される。

通常の物質は温度や磁場を変化させても、絶縁体から金属へ、もしくは金属から絶縁体へと性質が大きく変化することはない。しかしながら物質の中には、「金属-絶縁体転移」とよばれる相転移により、金属状態から絶縁体状態へと電気的な性質が変化するものがある。近年、絶対零度で起こる量子相転移に伴う金属-絶縁体転移についての研究が注目されているが、絶縁体の絶縁性は通常、磁場に対して強靭で、このような量子相転移に伴う金属-絶縁体転移を外部磁場により制御することは、ほとんど不可能だと考えられていた。

今回、同研究グループは、希土類と遷移金属のハイブリッド型磁性体であるパイロクロア化合物Nd2Ir2O7の単結晶を育成し、電気的特性を高磁場下かつ極低温で評価したところ、磁場で誘起される金属-絶縁体転移を観測することに成功した。

この金属-絶縁体転移は多くの特徴を持っており、たとえば磁場を加える方向を変えることでも転移の出現を制御することができる。今回用いたNd2Ir2O7においては「近藤カップリング」と呼ばれるNdとIr間の相関によりエネルギーギャップが開いているが、この近藤カップリング機構によるエネルギーギャップがNdの磁気的な構造に敏感であるため、Ndの磁気構造を磁場により変化させることで金属-絶縁体転移を制御できることがわかった。

Nd2Ir2O7の結晶および磁気構造。希土類元素Nd(ネオジウム:青)および遷移金属元素Ir(イリジウム:赤)がそれぞれ四面体を形成し、パイロクロア格子と呼ばれる結晶構造を構成する。

今後、Nd2Ir2O7のような希土類元素と遷移金属元素のハイブリッド型磁性体は、金属-絶縁体転移を利用した次世代メモリやセンサーへの応用に期待されるという。