文化庁メディア芸術祭実行委員会は27日、「平成26年度文化庁メディア芸術祭」の受賞作品・受賞者を発表した。

今年で19回目を迎えた「文化庁メディア芸術祭」の受賞作記者発表会。11月27日、東京・六本木の新国立美術館で開催された。

文化庁メディア芸術祭は、アート、エンターテインメント、アニメーション、マンガの4部門別に優れた作品を選出し、表彰する制度。19回目となる今回は、7月7日から9月9日の受付期間内に、世界87の国と地域から過去最高となる4,417作品が寄せられた。このうち2,216作品が海外からの応募となり、国内の応募作品とともに過去最多を記録した。

主催者を代表して挨拶した、文化庁文化部芸術文化課長の加藤敬氏。

国立新美術館長の青木保氏。国立新美術館は、2月3日から開催される受賞作品展のメイン会場となるが、厳正な審査で選ばれた様々なジャンルの作品が一堂に見られるのはもちろん、国内外の多彩なアーティストやクリエイターが集い、シンポジウムやプレゼンテーション、ワークショップ等のプログラムも予定されているという。

受賞作品は、各部門で大賞1作品、優秀賞4作品、新人賞3作品が選出された他、功労賞としてメディア芸術分野に貢献した4名が表彰される。受賞者には賞状、トロフィーの他、副賞として大賞60万円、優秀賞30万円、新人賞20万円が贈呈される。

アート部門の大賞は、香港生まれのメディアアーティストCHUNG Waiching Bryan氏の「50 . Shades of Grey」が受賞。額装した6枚のシートで構成されるグラフィックアートで、プログラミング言語を使用した、コンセプチュアルであると同時に視覚的な作品。見た目は、幾何学的で素っ気なくさえ見える簡素な作品だが、その奥に異質な世界観が層になって徐々に見えてくる豊かさが評価されたのが主な受賞理由だ。

アート部門大賞のCHUNG Waiching Bryan氏による「50 . Shades of Grey」(c)2015 Bryan Wai-ching CHUNG

受賞にあたり「本作はデジタルメディアアーティストとして、いかなる新しい技術もコンピュータをも使用せずに展示する、初めての作品。すべてのプログミング言語とソフトウェア・ツールはすぐに古い技術になってしまうが、詩的なテキストのようにコードを書いた。この作品の制作過程は、古い友人に再会したり、すでに消滅してしまった古い場所を訪ねていくようだった」とコメントを寄せたCHUNG Waiching Bryan氏。発表会にはビデオレターで登場した。

エンターテインメント部門の大賞は、岸野雄一氏による音楽劇「正しい数の数え方」が選ばれた。人形劇、演劇、アニメーション、演奏といった複数の表現で構成される、観客参加型の作品で、フランス・パリのデジタル・アートセンター「ラ・ゲーテ・リリック」の委嘱作品として2015年6月に上演されたものだ。1900年のパリ万国博覧会を舞台に、公演のために日本からパリを訪れた「川上音二郎一座」が、万博のパビリオン"電気宮"に現れた"電気神"が観客にかけた呪いを解くため、「正しい数の数え方」を求めて旅へ出る冒険譚。批評性と実験性が染み込み、時代を超え、手軽なテクノロジーに埋没しない原初的な魂が宿った、メディア性、芸術性が高く評価された。

エンターテインメント部門大賞を受賞した岸野雄一氏による「正しい数の数え方」(c)2015 Out One Disc

発表会にも主席した岸野雄一氏。「私は学問として芸術を学生に教えている立場にありますが、自分自身の表現のスタンスは、大衆芸能、見せ物といったものです。道端(ストリート)という市井にこそもっともメディアとしての可能性を感じており、アートのフレームのなかに安住することを避け、大勢の人たちを楽しませる表現をしていきたいと考えている」と、アーティストとしての姿勢や意気込みを語る。

アニメーション部門の大賞は、フランスのアーティスト・Boris LABBE氏の「Rhizome」。圧倒的な緻密さと極端な構図で展開される短編アニメーションで、フランスの哲学者ジル・ドゥルーズと精神科医フェリックス・ガタリの共著「千のプラトー」で複雑に展開される"リゾーム(Rhizome)"の概念にインスパイアを受け、創作された独創的な作品。仮想のスケール空間のなかで、生物とも無機物ともつかない抽象的な形態が常に変化し、個々の動きが全体の動きへと連なっていくなどユニークな感覚や、絵に疑似的な生命感を与えるアニメーションの原始的なおもしろさがある点などが評価を受けた。

アニメーション部門大賞に選ばれたBoris LABBE氏「Rhizome」(c)Sacrebleu Productions

ビデオレターで登場したBoris LABBE氏は、「本作は私にとって重要かつ基本的にポジティブな作品。鑑賞者にこれまでにないような映画的経験をしてもらいたい」と受賞の喜びと作品に込めた思いを伝えた。

マンガ部門の大賞に選ばれたのは東村アキコ氏の「かくかくしかじか」。 集英社の「Cocohana」で2012年1月号から2015年3月号まで連載されていた作品で、 作者が少女マンガ家を夢見ていた時代から、夢をかなえてマンガ家になるまでとその後の半生を題材にした自伝的マンガ。作者に多大な影響を及ぼした恩師の個性的なキャラクターが笑いと涙の要素を盛り込みながらさまざまなエピソードを通して語られるおもしろさや、個人的な経験から普遍的な物語へと昇華されている点などが審査員一同に感銘を与えたことなどが受賞理由となった。

マンガ部門の大賞を受賞した東村アキコ氏の「かくかくしかじか」(c)Akiko HIGASHIMURA/SHUEISHA/東村氏は「師匠との思い出を、ただ思い出すままに描いたこのマンガでこのような大きな賞をいただいて驚いている。この賞に恥じないよう、これからも私にしか描けないマンガを描き続けていきたい」とコメントを寄せた。

各部門のその他の受賞者、および受賞作品は以下のとおり。

【アート部門】
■優秀賞
Adam BASANTA(カナダ)「The sound of empty space」(メディアインスタレーション)
Marcel・li ANTUNEZ ROCA(スペイン)「Ultraorbism」(メディアパフォーマンス)
KASUGA(ドイツ)「Wutburger」映像インスタレーション
長谷川愛(日本)「(不)可能な子供、01:朝子とモリガの場合」(写真、ウェブ、映像、書籍)
■新人賞
山本一彰(日本)「算道」(計算手法、パフォーマンス) Lorenz POTTHAST(ドイツ)「Communication with the Future - The Petroglyphomat」(インタラクティブアート) Louis-Jack HORTON-STEPHENS(英国)「Gill & Gill」(映像作品)

【エンターテインメント部門】
■優秀賞
Jesse RINGROSE / Jason ENNIS(カナダ)「Dark Echo」(ゲーム)
Sougwen CHUNG(カナダ)「Drawing Operations Unit: Generation 1」(インタラクティブインスタレーション)
Assocreation / Daylight Media Lab(オーストリア)「Solar Pink Pong」(インタラクティブインスタレーション、 デジタルデバイス)
Marc FLURY / Brian GIBSON(米国)「Thumper」(ゲーム)
■新人賞
吉開菜央(日本)「ほったまるびより」(映画)
Christian WERNER / Isabelle BUCKOW(ドイツ)「Black Death」(ウェブ、ルポルタージュ)
橋本麦/ノガミ カツキ(日本)「group_inou 「EYE」」(ミュージックビデオ)


【アニメーション部門】
■優秀賞
岩井俊二(日本)「花とアリス殺人事件」(劇場アニメーション)
Riho UNT(エストニア)「Isand (The Master)」(短編アニメーション)
NGUYEN Phuong Mai(フランス)「My Home」(短編アニメーション)
Gabriel HAREL(フランス)「Yul and the Snake」(短編アニメーション)
■新人賞
新井陽次郎(日本)「台風のノルダ」(劇場アニメーション)
Agnes PATRON / Cerise LOPEZ(フランス)「Chulyen, a Crow's tale」(短編アニメーション)
Natalia CHERNYSHEVA(ロシア)「Deux Amis (Two Friends)」(短編アニメーション)


【マンガ部門】
■優秀賞
志村貴子(日本)「淡島百景」
田亀源五郎(日本)「弟の夫」
HO Tingfung(ポルトガル)「Non-working City」
業田良家(日本)「機械仕掛けの愛」
■新人賞
おくやまゆか(日本)「たましい いっぱい」
ネルノダイスキ(日本)「エソラゴト」(同人誌)
安藤ゆき(日本)「町田くんの世界」


【功労賞】
飯村隆彦(映像作家/批評家)
上村雅之(ハードウェア開発者/ビデオゲーム研究者)
小田部羊一(アニメーター/作画監督/キャラクター・デザイナー)
清水勲(漫画・諷刺画研究家)

なお、今回の受賞作、および優秀作品計160点を集めた受賞作品展が2月3日から14日の期間、国立新美術館をはじめ、TOHOシネマズ六本木などで開催される予定だ。