今回のSC15で発表された第46回 TOP500では、中国の「天河2号」が1位を維持し、Top5には変動が無かった。また、Top10で見ても、新顔は6位の米国の「Trinity」と前回の23位から増設でランクアップして今回8位となったドイツの「Hazel Hen(前回の名称はHornet)」の2システムだけである。

これを見ると、今回もTOP500には大きな変動は無かったとも言える。しかし、実は大きな変化がある。TOP500にランクインした中国のシステム数が大幅に増加したのである。今年6月の第45回のリストでは37システムであった中国のシステム数が、今回は109システムに激増している。

国別のTOP500にランクインしたシステム数

これにより、前回は40システムで米国に次いで2位だった日本は39システムで3位に後退している。また、メーカー別では、49システムをランクインさせたSugon(曙光)が、HP、Crayに次ぐ3位となった。

TOP500でのメーカー別システム数シェア。中国のSugonが3位に躍進

これを受けて、Sugonの展示ブースでは、アジアの第1位のスパコンベンダーと書かれていた。

アジアで1位のHPCベンダーと謳うSugon(曙光)の展示ブース

この中国のシステムの急増は驚きで、多額の予算をつぎ込んで、スパコンを増強したのかと思ったのであるが、その中身を詳しく見て行くと、どうもそうではないようである。

前回までのTp500リストに載ったことがなく、今回のリストで初登場した中国のシステムは87システムある。しかし、その中には、2013年に設置されたと申告されているシステムが2システム、2014年に設置されたと書かれているシステムが3システム含まれている。これらは以前から存在したスパコンであるが、これまではLINPACK性能の測定を行わず、TOP500に参加していなかったシステムである。

これらの5システムのうちGovernmentのシステムが1システムあるが、4システムはIndustryとなっている。私企業が所有しているスパコンについては、TOP500に参加するものもあるが、どの程度の規模のスパコンを持っているかをライバル企業に知られたくないので、TOP500などのベンチマークには参加しないという企業も多い。

今回、新顔として登場した中国のスパコンは、Government、Research、Academicというものはごく少数で、大部分はIndustryのスパコンである。また、設置年は2015年となっているが、使っているCPUを見ると、最新のXeon E5-2600のv3ではなく、1世代前のv2を使っているシステムも多い。このため、これらのシステムは、申告上は2015年設置となっているが、それ以前に設置されたものもかなりあるのではないかと推測される。

設置企業であるが、Internet Company Bのように業種以外は匿名のエントリも多いが、AlibabaとかChina Mobileというものや、Agricultural Bank of China (ABC) Shandongなどというものもあり、いわゆる科学技術計算向けの計算センターではないものが多く含まれているのではないかと思われる。

例えば、Google、Microsoft、Amazonなどが、そのセンターを使ってTOP500のランキング用のベンチマークであるLINPACK性能を測れば、相当に高い値が出せると思われる。また、トヨタや日産、ホンダなどの自動車メーカーも相当規模のスパコンを使って衝突シミュレーションなどを行っていると見られるが、TOP500で高いランクをとっても会社としては何のメリットもないので、TOP500には参加していないと思われる。

LINPACK性能の測定には、どの程度のチューニングを行うかにもよるが、1日から1週間程度を必要とし、その間、システムを占有してしまう。商用の運用を行っているInternet Companyでは、通常業務を止めてLINPACK性能を測定するのは容易ではない。中国では、政府の権限が強いので、システムを借り上げて測定するということが出来るのかも知れないが、日本や米国ではインターネットサービスや銀行のオンラインを止めて、LINPACK性能を測定することは出来そうにない。

したがって、日本や米国で同じ手法でTOP500にランクされるシステム数を増やすことは難しいが、一方、中国のスパコン資源が急速に増加したということでもなさそうである。