デジタルマーケティング・ソリューションに対する需要が活況を示している。そこで、そのソリューションの1つである「Data Management Platform(以降、DMP)」を活用して、マーケティング担当者がデータ指向でマーケティング活動を進めていく方法を考えてみたい。

前編では、プライベートDMPはマーケティング担当者が適切なターゲットオーディエンスを特定するためのデータプラットフォームであることを解説した。後編となる本稿では、企業のプライベートDMPと顧客エンゲージメント形成から維持に至るプロセス全体との関わりについて解説する。

事業会社のマーケティング担当者がプライベートDMPシステムを導入する目的は、「オーディエンス・マネジメント」とマーケティング・オートメーション(Marketing Automation。以降、MA)製品と連携しての「キャンペーン・マネジメント」に大別される。以下、それぞれについて説明しよう。

オーディエンス・マネジメント

マーケティング・アナリティクスについて解説した際、カスタマー・インサイトとはマーケティング担当者の意思決定に必要な見込み顧客(リード)や顧客の行動や態度に関する兆候を検知し、適切なアクションに結び付けることと述べた。

プライベートDMPはオーディエンス・インサイトを得るためのデータプラットフォームであり、ブランドがターゲットとするオーディエンスを見込み顧客や顧客の行動データから明らかにする。ターゲット・オーディエンスの特定方法には、オーディエンスの特徴を簡単な文章にまとめたペルソナもある。

ペルソナはマーケティング・チーム間で共有する分には便利だが、デジタル・マーケティング環境での活用は難しい。これに対し、プライベートDMPでは通常ダッシュボードが提供され、属性データを基にブランドのターゲット・セグメントを可視化してくれる。ここで重要なのが属性の多様性である。文章で詳細に記述する代わりに、属性を基にオーディエンスを分類すれば、システムでターゲットセグメントを可能な限り詳細に特定できるからだ。さらに、キャンペーンの実行結果を基にターゲット・セグメントの精度を高めるための微調整を行うことも容易になる。

キャンペーン・マネジメント

通常、マーケティング・キャンペーンは複数同時に展開されることが多く、マーケティング担当者はセグメントごとに最適なチャネルを選んで実施する。キャンペーン実行中は、状況に応じて各セグメントのオーディエンス・インサイトから、提供しているコンテンツやチャネルが適切かを財務的な視点から確認したい。そして、キャンペーンのROIを最大化するための判断材料を提示してほしいと考える。

つまり、DMPにはオーディエンスを理解するためのキャンペーン・アナリティクスを包括する基盤としての役割も求められている。しかし、DMPの多くはターゲット・セグメントの特定に焦点を当てており、ダッシュボードは提供されているが、キャンペーンのROIを最大化するための高度なアナリティクス機能までは備わっていない。また、オフラインを除く顧客接点は、Webサイトのほか、ソーシャルメディアやモバイルアプリケーションまで拡張している。モバイルアプリケーションの利用状況のトラッキングは適切なアクションを促すうえで重要性を増しつつあるが、Webサイトでのトラッキングとは異なるテクノロジーを用いる。考えられる顧客接点すべてから行動データを収集しようとすると、モバイル連携に対応したMA製品との連携も必要になる。

MAやSFAとの相違

マーケティング担当者にとってわかりにくいのが、プライベートDMPとMAやSFA(Sales Force Automation)との区別ではないだろうか。

最近では、優れた顧客エクスペリエンスを提供することを目的としたMA導入が国内でも進みつつあり、デジタル・マーケティングのためのプラットフォームならば、既存のSFAとMAを連携させればいいのではないかと思うかもしれない。また、DMPのほうがMAよりも先に注目を集めていた経緯もあり、プライベートDMPを導入すればすべての課題が解決すると思うかもしれない。

「プラットフォーム」という言葉の乱用がプライベートDMPの価値に関する理解を難しくしていることも問題だが、MAやSFAが顧客エ ンゲージメント獲得から維持までの一連のプロセスに関わる業務効率化を支援するアプリケーションであるのに対し、DMPはマーケティング・ミドルウェアである点が異なる。ミドルウェア単独を機能させることは難しいが、アプリケーションと一緒に使えば価値を最大化させることができる。

求められるIT部門との協業

精度の高いセグメンテーションを行う能力は、見込み顧客や顧客を深く理解することにつながっており、市場競争の激しい環境で生き残っていくために不可欠である。

プライベートDMPを構築しようとする事業会社は、マーケティング・キャンペーンの実行状況と効果を測定・監視するMA製品やアナリティクス製品との統合を視野に入れることになるだろう。国内では、ビジネスユニットがビジネスシステムのデータオーナーとしての役割を担う企業が少なく、社内のデータマネジメントはIT部門に集中している企業がほとんどと思われる。また、前編でも述べたとおり、個人情報やプライバシーの保護に配慮しながら、積極的なデータ活用を進めるのは簡単な道のりではない。

MAの導入には必ずしもIT部門の協力が必要なわけではないが、マーケティング担当者がデータ指向でデジタル・マーケティングに取り組むならば、大企業ほどIT部門やデータを保有している他部門との協業が必須になるだろう。