従業員には広東語、取引先とは英語、家庭では日本語と、三カ国語を日常生活で操る南天製麺ゼネラルマネージャーの鈴木誠さん。日本人の父、香港人の母の家庭で育ち、香港と日本の行き来。アメリカにも住んだ経験がある国際人の彼が考えるワークスタイルとは?

鈴木誠さん/香港在住/40代/製麺会社マネージャー

■これまでのキャリアの経緯は?

香港で育ち、高校は日本、大学はアメリカに行きました。オレゴン大学での専門はビジネス学部ファイナンス専攻。金融に興味があり、卒業後はアメリカにある世界最大のコングロマリット(複合企業)に入社。入社後2年間、東京でファイナンシャル・マネジメント・プログラムを受け、プログラム修了後も数年は東京で働きました。その後、念願のアメリカ行きが叶いボストンへ。経理の仕事に携わっていました。

入社して10年くらいたった頃、父の製麺会社が忙しくなりました。今までの経理という会社組織の一部ではなく、経営や人事、物流など全体のマネジメントを勉強したいという思いが強くなり、アメリカの会社を辞めて香港の製麺会社に移りました。

この決断は難しいものでしたが、一番大きな理由は金融商品といったお金がお金を生む産業ではなく、生麺といった些細な食品を原材料から製造に至るまで、すべてに責任を持って実態商品を作る事業に関わりたいと思ったところです。麺商品には、乾麺、冷凍麺、生麺があります。乾麺と冷凍麺は、保存期間が長いので、消費者をはじめレストランの人たちに好まれます。それに比べると生麺の賞味期限は通常2週間程度。ですが、私がこだわる日本のラーメンといえば生麺なので、そこは変えられません。

現在、毎日の製造量は、麺の玉数にすると1万5千食。生麺の種類は50種類ほどあります。従業員は私を含めて8人。私の仕事は、製造ラインのほかに、品質管理、 新しい麺の考案、小売の新商品設計と企画、日本からの輸入原材料の仕入れ、バックオフィスの経理や人事関連の職務まで、オールラウンダーです。

「I Love Soup」は香港の日系スーパーや地元のスーパーで販売。日本の食文化をアピールするために、商品名は日本語にしている。

■現在のお給料は以前のお給料と比べてどうですか?

ゼネラルマネージャーという立場上、会社の成績イコール自分のお給料。自分がやったことに対しての報酬なので、とてもやりがいがあります。大きな企業で毎月決まったお給料をもらうサラリーマンではなく、自分で起業をしたいという考えは、今までにいくつもの会社の設立を手掛けた起業家の父の影響だと思います。

■今の仕事で気に入っているところ、満足を感じる瞬間は?

自分の考えで動けるのがいいですね。与えられた仕事ではなく、自主的に売り上げにつながるアクションを起こして結果を出せるということが気に入っています。また、自分の会社で作った麺をレストランでお客さんが食べておいしいと言ってもらえたり、スーパーマーケットの棚に商品として売られているのを見るのもうれしいです。

一日の仕事が無事に終えた瞬間も、満足を感じるひとときです。従業員が安全に仕事を終え、ミスもなく、同じ品質を保つ。毎日同じ作業の繰り返しですが、この日々の積み上げが大事なのだと思います。

■逆に今の仕事で大変なこと、嫌な点は?

香港人従業員の教育やチームのモチベーションをあげるなど、よりよい仕事環境を作ることでしょうか。従業員への指示は広東語なので言葉の問題ではなく、カルチャーの違いなんですよね。日本人はきちんと仕事をするけど、香港人はどちらかというとルーズ。仕事に対しての意識が違うのは、感覚や考え方が違うから。こちらの求めている形を押し付けるのではなく、相手のスタイルを理解して、お互いにとって向上でき、気持ちよく働ける職場作りを目指しています。

取引先の麺屋さんで提供しているラーメン

■休みのとりかたは?

家族のために料理をします。ランチはだいたい外食するので、朝ごはんと夜ごはん。料理をするのは好きなので楽しいですし、ストレス解消にもなります。得意料理はスパゲティ。娘も妻もすっごくおいしいと言ってたくさん食べてくれますよ。

■日本人のイメージは? あるいは、理解し難いところなどありますか?

日本は全てのことに対して繊細で、細かなディテールまでが美しい。それは日本人が勤勉で、常に改善を求めているからだと思います。また、パッケージングの技術や美的センスも素晴らしいですね。

■最近TVやラジオ、新聞などで見た・聞いた日本のニュースは何ですか?

終戦70周年の安倍首相の談話は未来志向で素晴らしいと思いました。

■ちなみに、今日のお昼ごはんは?

現在開発中の商品の「えび風味のまぜそば」。ランチタイムは新しい商品を試す絶好のチャンスなので、職場のみんなの意見を聞き、よりよい商品作りを心がけています。

ランチは、新商品「海老まぜそば」の試食

■将来の仕事や生活の展望は?

しばらくは今の仕事を続けるつもりですが、いずれは海外のどこかで、現地で手に入る原材料を使って、日本のものを作り、現地の人に食べてもらいたいですね。たとえば大豆で豆腐ドーナッツを作るとか。また、今の製造業はお客さまの手に届くまでに時間がかかるので添加物を入れるのは仕方がないのですが、目の前で作って、はいどうぞ、というのが私の理想です。健康にもいい、カラダにやさしい食べ物を提供したいですね。