日本国内外の企業経営者やマーケター、研究者、政治家、官公庁担当者などが参加し、マーケティングをめぐるさまざまな課題や将来の方向性をディスカッションする「ワールド・マーケティング・サミット・ジャパン2015」が、10月13日・14日の2日間に渡り開催された。

「デジタルマーケティングへの挑戦」と題したパネルディスカッションには、ヤフー 代表取締役社長の宮坂学氏やアスクル 代表取締役社長兼CEOの岩田彰一郎氏、ノースウェスタン大学 ケロッグ経営大学院のモーハン・ソーニー教授、ソフトバンク 執行役員 広告宣伝本部長の栗坂達郎氏、モデレータとして早稲田大学ビジネススクールの入山章栄准教授が登壇し、スマートデバイスやソーシャルメディア、ビッグデータやIoTといったデジタルトレンドについて語った。本レポートでは、各登壇者のプレゼンテーションを紹介する。

日本を代表するデジタル企業の代表者がマーケティングを語った

企業に求められる"Always-On"のマーケティング

パネルディスカッションは、基調講演を行ったフィリップ・コトラー教授の発案により、各パネラーがひとり15分間の単独のプレゼンテーションを行ったのち、全員で意見を交わすという形式が取られ、最初はスケジュールの都合で議論に参加できなかったモーハン・ソーニー教授がプレゼンを行った。

ソーニー教授は、「デジタルの世界では、顧客は常に起きていて、企業は眠ることなく常にスイッチONの状態でいなければならない」という言葉を皮切りに、デジタルマーケティングの世界でいま何が起きているかを紹介した。

デジタルの世界では、顧客は常にネットに繋がり、スマートデバイスを駆使してさまざまな方法でインタラクションをしている。ソーニー教授によると、米国の調査では1人が1日に携帯電話やスマートフォンの画面を見た回数は163回に及ぶという結果が出たという。日本ではこれが更に多い可能性は高い。「デジタル世界では顧客は眠ることはなく、常にネットに接続されている。ということは、マーケティング活動も常に顧客に繋がっていなければならない」とソーニー教授は語る。

ノースウェスタン大学 ケロッグ経営大学院のモーハン・ソーニー教授

では、顧客と24時間常に繋がる"Always-On"のマーケティング活動を、どのように実現すれば良いのか。

これまで、企業は顧客からのアテンションを得るためにキャンペーンを立ち上げては忘れ去られるというプロセスを繰り返してきた。しかしソーニー教授は、常に顧客と繋がるマーケティングを実現するために「企業は、"キャンペーン型のマーケティング"から"対話型のマーケティング"へと転換しなければならない」と語り、従来型のプロセスから抜け出さなければならないと提言した。

そしてソーニー教授は、こうした提言の背景としてマーケティングコミュニケーションに起きている変化について整理した。「これまでは、どれだけの広告が露出されたか、どれだけの人がその広告に接触したかが重視されてきたが、これからのマーケティングではこうした露出やタッチポイントは重要ではない。マーケティング活動によって継続的なエンゲージメントを生み出すことが求められている」とソーニー教授。ここで言うエンゲージメントは、ただ製品やサービスの情報を発信だけで生み出されるものでは十分ではなく、そこには企業と顧客との間に「心・感情の繋がり」を生み出すことを指す。

「企業は顧客に情報を伝えるだけではなく、(製品・サービスやブランドの)ストーリーを伝えなければいけません。デジタルを通じて継続的に顧客と繋がり、顧客の情熱やモチベーションを生み出していくことが重要になります」(ソーニー教授)

常に顧客と繋がる"対話型のマーケティング"へと転換が必要

こうした目的のために、ソーシャルネットワークを活用したコミュニティを醸成することや、ソーシャルメディアを活用してマインドシェアを獲得していくといったメソッドが重要だとソーニー教授は指摘。「SNSやソーシャルメディアは、簡単にはやめられない。顧客のカスタマージャーニーを後押しするために、企業はコンテンツの発信やコミュニケーションの醸成を継続的に行っていかなければならない」と説明する。

そしてソーニー教授は、「パソコンはワイヤレスになり、スマートデバイスへと進化していつでも使えるようになった。モバイルデバイスは既に世界の人口を超えたと言われているが、"繋がる世界"はこれから更にIoTへと進化していく。人・モノ・情報がすべてネットに繋がる時代がやってきたのだ」と語り、デジタルの発展が生み出した"Always-On"のマーケティングにおける次の重要なキーワードとして、IoTの拡大を挙げた。

そして、こうした変化を前提に、企業と顧客と常に繋がるマーケティングにおいて重要となるのが、ビッグデータの活用に基づくコンテンツマーケティングの推進だと提言した。「マーケティングが"Always-On"であるためには、そのコンテンツに十分なストーリー性や新鮮さがある必要があり、またオムニチャンネルによるコンテンツ体験がリアルタイムで提供されなくてはならない」のだという。

"Always-On"マーケティングにおいて企業に求められるものは非常に多い

加えてソーニー教授は、こうして企業が生み出すコンテンツについて「ROIではなく、ROE(Return on Engagement)を重視しなければならない。顧客には限られた資源の中でも特に時間がなく、インタラクションをするために求めているのは"役に立つ情報"、"生活が楽になるための情報"だ。ただ商品やサービスを語るのではなく、そのコンテンツが顧客にとって役に立つものでなくてはならない。まるでメディア会社のようなマーケティングを実践しなくてはならない」と語る。

顧客の関心を生み出すためには、顧客が何を求めているのかということを理解しそれにスピーディに応えることが重要だとし、声高に商品やサービスをアピールする従来型のマーケティングとの決別を提言した。

顧客のモチベーションを探ることが"Always-On"マーケティングの出発点