オフィスという枠に縛られず、いつでも、どこにいても効率的に仕事ができるようなワークスタイルが、インターネットやスマートデバイスなどの普及によって注目を浴びている。このような新たなワークスタイルを実現する働き方は「テレワーク」とも呼ばれており、国や関係団体の支援のもと、先進的な国内企業を中心に盛り上がりを見せ始めている。

そこで本稿では、テレワーク推進に関する高度情報通信基盤の整備や利活用促進などを進める総務省の担当者に、テレワークとはどのようなもので現在どのような取り組みが行われているのかなどについて話を聞いた。

在宅、モバイル、サテライト──テレワークの3つの形態

まずは「テレワーク」の意味についておさらいしておこう。テレワークとは、「情報通信技術を活用した、場所にとらわれない柔軟な働き方」を指しており、「tele=離れたところで」と「work=働く」を合わせた造語である。

テレワークの形態としては大きく3つが挙げられる。まず1つ目が、通常勤務しているオフィスに出勤せずに自宅で仕事を行う「在宅勤務」であり、2つ目が、顧客先や移動中、出張先のホテル、交通機関の車内、さらにはカフェなどで仕事を行う「モバイル勤務」、そして3つ目は、自社のサテライトオフィスや共同利用型のテレワークセンターで仕事を行う「サテライトオフィス勤務」である。いずれの勤務形態にも共通しているのが、本社オフィス以外の場所でICTを活用しながら働くという点だ。

総務省 情報流通行政局 情報流通振興課 情報流通高度化推進室 室長 吉田宏平氏

このように、ICTを利用していつものオフィス業務を実現できるテレワークは、その導入によって新たなワークスタイルを実現するメリットが期待できる。社会・企業・そして就業者のそれぞれに大きなメリットが期待できるのだ。例えば社会にとっては、労働力人口の減少緩和や環境負荷の軽減、地域活性化といったメリットが享受でき、企業にとっては、生産性の向上や優秀な人材の確保、コスト削減、事業継続性の確保などが期待できる。そして就業者にとっては、家族で過ごす時間や自己啓発の時間の増加といったワークライフバランスの実現、育児・介護との両立やより自由な居住地の選択など多様で柔軟な働き方の確保、通勤時間の削減による時間の有効活用といったメリットが見込めるのである。

総務省 情報流通行政局 情報流通振興課 情報流通高度化推進室の室長、吉田宏平氏は次のように説明する。「実はテレワークの試み自体は90年代から続いていて、意外と歴史があるんです。ネットワークの高速化やモバイルデバイスの普及など当時とはかなり環境が変わってきましたが、ICTを使って場所や時間にとらわれない柔軟な働き方を実践するという基本コンセプトには変わりありません。最近だとノマドワーカーやクラウドソーシングなどが話題となっていますが、これらもそのコンセプトを見ればテレワーク全体の枠組みの中にあるものと言えるでしょう」

注目度の割に低い導入率、その理由は?

このように、企業からも働く人々からも、それに地域社会からも注目を集めるテレワークだが、現状では大きな課題も存在している。それが、まだまだ実践する企業が少ないという点だ。わが国におけるテレワーク人口およびテレワーカー率の推移を見ると、2005年が1000万人/15.2%だったのに対し、2014年には1070万人/16.4%とほとんど横ばいといっていい推移を示している。また総務省が2014年に実施した調査によると、テレワークを導入している企業(従業員数100人以上)の割合は11.5%にとどまっており、テレワーク制度を利用する従業員の割合も5%未満という企業が多い。ただし、企業での導入率には組織の規模によって大きな開きがあるようだ。例えば資本金50億円以上の企業の場合には、その導入率は50.9%にも及んでいる一方、資本金1000万以下の企業となると2.5%でしかない。

そしてテレワークの導入を阻害する一番の要因と言えるのが、「テレワークに適した仕事がない」、「導入のメリットがよく分からない」、「情報漏えいが心配」、「業務の進行が難しい」などの意識面の問題だ。中でもテレワークを導入しない理由として、適した仕事がない点を挙げた企業の割合は、7割を超えているのである。

このような課題を抱えるテレワークだが、先の調査結果のとおり大企業を中心に先進的な事例も数多く存在している。事実、女性が活躍することで知られる企業ほど、在宅勤務などのテレワークを実践している比率は非常に高い。今後、社会での女性のさらなる活躍や地方創生などの追い風を受けて、テレワークの導入は加速度的に推進していくと期待される。

「これまでは都会での働き方を柔軟に変えようというコンセプトのテレワークがメインでしたが、これからは地方に人材を送り込んで人の流れを変えていこうという『ふるさとテレワーク』の推進も重要なテーマになっていきます」(吉田氏)

国民の機運を高める「テレワーク月間」

こうしたなか、政府は2020年までに、「テレワーク導入企業を2012年度比で3倍」、「週1日以上終日在宅で就業する雇用型在宅型テレワーカー数を全労働者数の10%以上」といった高い目標を掲げている。そこで、この目標の実現に向けて、内閣官房(IT室)が総合調整役となり、総務省が情報通信政策や地域活性化支援、厚生労働省が労働政策、国土交通省が国土交通政策、経済産業省が産業政策といったように、関連省庁による連携体制が強化されている。

また今年度には、新設の「地方における企業の拠点強化を促進する特例措置」や継続制度である「生産性向上設備投資促進税制」を活用することにより、東京圏などに本拠地を構える企業が地方へサテライトオフィスを設置する場合の税制上の支援など、テレワーク導入を促す各種支援施策も拡充されている。

さらには、全国でのテレワーク推進の機運を高めるべく、総務省、厚生労働省、経済産業省、国土交通省、学識者、民間事業者などによるテレワーク推進フォーラムが今年11月を「テレワーク月間」として設定。11月25日にはテレワークに関するシンポジウムを、そのほか各種イベントや学会などが各地で開催される予定だ。

「現状の課題を解決するために、テレワークについてもっとよく知ってもらい心理的なハードルを下げつつ、効果的な事例を紹介することで自分たちもこうすればうまくいくんだと自信を抱いてもらうことが、現在のわれわれに課せられた役割の1つだと考えています」(吉田氏)