NTTと東北大学は10月19日、高感度センサなどに広く用いられているメカニカル振動子の熱ノイズを、レーザー光を照射するだけで低減できる新しい原理のレーザー冷却手法を実現したと発表した。同成果は英科学誌「Nature Communications」に掲載される予定。

鉄琴の板や鐘など、決まった周波数で振動が続く人工構造をメカニカル振動子と呼ぶ。近年、ナノテクノロジーの進展により微細化や集積化が進みMEMS振動子としてセンサや発振素子などの微小素子として広く用いられている。

メカニカル振動子の性能を制限するものとして、熱ノイズの影響が知られている。熱ノイズは微細かつランダムな揺れを振動子に引き起こすため、振動子の極限性能を低下させてしまう。熱ノイズを低減させる手法としてレーザー冷却の手法が提案されていたが、従来の手法では光共振器と呼ばれる光学部品と組み合わせる必要があり、素子応用や集積化の上で問題があった。

今回の研究では、光学特性と圧電特性に優れたガリウム砒素(GaAs)とアルミガリウム砒素(AlGaAs)の2層構造を用いて振動子を作製することにより、レーザー光を振動子に照射するだけで熱ノイズを抑えることに成功。実験では、熱振動の抑制効果は半分程度だったが、今後、構造を最適化することでより大きな冷却効果を得られるようになるという。さらに同研究グループは、レーザー素子との集積化や室温動作を実現し、半導体集積素子としての応用可能性を探り、実際の質量や光のセンサへの応用を進めて行くとしている。

(a)作製したメカニカル振動子の顕微鏡写真(上面図)。プールの飛び込み台のように、構造の右側が自由に上下できる構造になっている。(b)実験方法を模式的に示した図。振動子は200nm厚のAlGaAsと200nm厚のGaAsの2層薄膜により作製されている。熱揺らぎによりこの振動子は上下に揺れるが、振動子の根元にレーザーを照射することにより、この熱振動を抑えることに成功した。