「なぜ日本のBIM(Building Information Modeling)は毎年、元年なのか?」―これはオートデスクの年次イベントAutodesk University 2015の分科会に登壇したアルゴリズムデザインラボの重村珠穂氏が放った言葉だ。

アルゴリズムデザインラボの重村珠穂氏

日本とアメリカでは大きな差があるという

BIMとは3Dモデルに必要な属性情報を付与し、設計、施工、維持管理などの建物ライフサイクル全般に活用する手法で、海外(主に発祥の地アメリカ)では普及が進んでいる。一方、日本でも導入しようと努力している企業はあるものの、アメリカに比べると遅れていると言わざるを得ず、言葉としてもCADやCAEと比べて浸透していないのが現状だ。

そこで本稿では重村氏の講演で述べられた、BIMの発祥や海外の事例、そして日本における課題などについてご紹介する。

BIMのベースは自動車の生産システム

BIMがアメリカ発祥であるということは冒頭で述べた。重村氏によれば、BIMは車の生産システムをベースとしていて、その背景には同国ならではの悩みあるという。

アメリカでは設計と施工が完全に分かれており、どんなに変な設計図でも施工はその通りに作っていく。これはアメリカが完全な契約社会であり、施工側で勝手に設計図と違うことをすると訴訟問題に発展する可能性があるからだ。そのため、非常灯の裏に監視カメラが設置されたり、ありえないくらいエスカレータと天井が近いなど、考えられないような設計がそのまま施工されてしまう。

また、アメリカは多人種国家であり、英語が使えない作業員もいる。そのため、現場の作業員に対してきちんとした教育ができず、日本やドイツの職人と比べて施工の品質がなかなか上がらないという課題もあった。

そこで注目されたのが、自動車の生産システムだった。部品がきちんと製品化されないと完成しない自動車の生産メッソドを建設業にも持ち込めば日本やドイツの品質に対抗できるのではと考えたのだ。ちなみに、BIMソフトの1つに、ダッソー・システムズのCATIAを建築向けにアレンジしたものがあるという。

その後発達を続けたアメリカのBIMは、現在ではRFIDと組み合わせて部材の状況を管理したり、現場にBIMを搭載したボックスを設置して作業進捗の把握に利用するなど、さまざまな応用方法が登場しており、現場でのムダ削減に活用されている。

BIMはアメリカで必要に迫られて生まれたもの

現在ではさまざまな方法で活用されている

BIMのお手本はトヨタ?

日本やドイツの施工品質に対抗するために編み出されたBIMだが、海外ではトヨタ自動車の生産システムが注目されているという。また、トヨタホームはトヨタ自動車の生産システムを流用している。「トヨタホームは建築向けソフトをカスタマイズしてBIM化しやっている。契約している生産工場に情報が自動で流れるようになっていて、営業の人が手で書いた情報をおばちゃんに渡すと、おばちゃんたちが瞬時にシステムに入力して自動的に図面が出来てくる」(重村氏)。

ただし、トヨタホームとしてはBIMを導入したつもりはあまりないらしく、重村氏が同社に勤める友人にBIMについて尋ねたところ「BIMって何?」という答えが帰ってきたという。つまり、トヨタホームがBIMを導入したというよりは、トヨタ自動車がカイゼンを重ねて築き上げた生産システムを関連会社にヨコテンした結果、BIMが目指している効率的な仕組みが出来上がったわけだ。この場合、トヨタグループの文化が発祥の根底にあるわけで特殊な事例と言えよう。

ではなぜ(トヨタホーム以外の)日本の建設会社ではBIMが上手く行かないのか。重村氏は「教育」が問題の1つであると指摘する。例えばマサチューセッツ工科大学(MIT)ではBIMの授業があり、学生はBIMのスキルを習得した状態で就職する。一方、日本の大学ではほとんどBIMを教えていないため、企業が教えなければならず負担となっている。

また、職人のレベルが高いため自分たちがBIMでは遅れているということに対して危機感が薄いこともBIMの普及を妨げている要因の1つだ。将来的に職人の数が減っていくことは明らかなので、日本が強みとしている施工品質も課題となる可能性がある。また、労働力が不足して建設現場で外国人を多く雇うようになれば、アメリカのように言語の問題も発生するだろう。

もちろん、BIMを導入すればそれで全てが解決するわけではなく、使い方によっては逆に効率を悪くする可能性があるし、そもそも導入には少なくないコストがかかる。しかし、それでも重村氏は「本気でBIMを考えたら建設業界が楽になる可能性がある。フロントローディングによって現場が建てることに集中できる。」と語り、BIMの重要性を強調した。