Mala Sharma氏

10月5日から7日(太平洋夏時間)にかけての3日間、米カリフォルニア州ロサンゼルスにあるロサンゼルスコンベンションセンターおよびマイクロソフトシアターにおいて、Adobe Systems主催のクリエイティビティ・カンファレンス「Adobe MAX 2015」が開催された。

開催期間中には、同社のクリエイター向けの戦略を担うCreative Cloudに関して、さまざま新製品や新機能が発表された。そこで本稿では、Creative Cloudのこれまでの軌跡を振り返った上で、Adobeで"Creative Cloud Go-to-Market and Strategy"チームのVice Presidentを務めるMala Sharma氏によって発表された今後の戦略などについてレポートする。

これまでのCreative Cloudの進化

まずはCreative Cloudがこれまで歩んできた軌跡を振り返ってみよう。Creative Cloudのサービス自体がスタートしたのは2012年5月であり、翌年の6月にパッケージ製品群であるCS6がクラウドベースのCCへと移行されたことにともなって、ツールとクラウドサービスが統合された現在の形が出来上がった。

翌2014年の6月には、誕生以来初のメジャーアップデートが行われ、バージョン名がCreative Cloud(2014)となった。このアップデートの中でAdobeは、モバイル端末のサポート強化や、ツールやデバイスの垣根を越えたワークフローの実現といったCreative Cloudの新しい方向性を打ち出した。これは、それまで単体で完結していた各ツールがクラウドを介してシームレスに連携されることによって、Creative Cloud自体をひとつの巨大なクリエイティブツールとして利用できるようにしようというものである。中心になるのは「Creative Profile」と呼ばれるクラウド連携機能で、各種ツールはこのCreative Profileによって、あらゆるアセットをデバイスを問わずに共有することができるようになった。

そして前回のAdobe MAX(2014年10月開催)では、モバイルにおけるクリエイティビティのサポートを強化する目的で、Premiere ClipやAdobe Brush、Adobe Shapeなどといった新しいモバイルアプリがリリースされている。さらに、タブレット端末で操作に最適化された「タッチUI」の開発に注力していることも発表され、その第1弾としてIllustratorおよびPhotoshopに「タッチワークスペース」が追加された。

今年6月には2度目のメジャーアップデートとしてCreative Cloud(2015)がリリースされており、これが直近の大きなリリースである。このアップデートではツールやデバイスをまたいだコンテンツを同期・共有をよりシームレスに行うための「Creative Sync」と呼ばれる新機能が追加されている。また、有償のストックコンテンツサービス「Adobe Stock」が開始されたのもこのときである。Adobe Stockの大きな強みはCreative Cloudツールとシームレスに連携している点で、各デザインツール内から直接Adobe Stockにアクセスし、画面を切り替えることなく任意のコンテンツを取り込むことができるようになっている。

そして今回のAdobe MAXで発表された新ツール・新機能である。発表内容の詳細は初日の基調講演レポートを参考にしていだきたいが、主要なもののみを挙げると次のようなものがあった。

・CreativeSyncによる同期機能の拡充で、モバイルアプリ間の連携を強化
・各種デスクトップアプリおよびモバイルアプリの大幅な機能拡張
・新モバイルアプリ「Photoshop Fix」と「Adobe Capture CC」のリリース
・Typekitにモリサワ書体を追加
・Adobe Stockにビデオコンテンツを追加
・各種デスクトップアプリにタッチUIを搭載
・新UXツール「Project Comet」の発表

また、Sharma氏は、次に示すような内容を主な発表として挙げている。

Creative Cloudの主要なアップデート

Creative CloudはCreativeSyncを中心にして発展させていく

Sharma氏はCreative Cloudの戦略について、デスクトップアプリ、モバイルアプリ、マーケットプレイス、そしてコミュニティの4つを柱とし、それらをCreativeSyncとAssetsによって連携させ結びつけるという方針が基本にあることを説明した。

Creative Cloudは、デスクトップアプリ、モバイルアプリ、マーケットプレイス、そしてコミュニティの4つの柱を、CreativeSyncとAssetsによって連携・結びつけを行う

基調講演でも強調されていたが、AdobeはCretive Cloudによってクリエイティブ活動のワークフローを変えることを提案しており、CreativeSyncはその中心的な役割を果たすものである。今回、Creative Syncおよび関連する各種アプリがアップデートされたことによって、これまで十分ではなかったモバイルアプリ同士の連携という部分が大幅に強化されている。そしてさらに、Creative CloudとMarketing Cloudを連携されるというビジョンもあるとSharma氏は説明した。

CreativeSyncを中心としたデバイス間の連携

マーケットプレイスについては現在「Behance」と「Adobe Stock」の2つが提供されているが、「これらを通じてデザイナーやクリエイターが自分たちの作品を積極的に収益に結びつけることができるような環境を提供したい」と付け加えている。また、コミュニティについてもBehanceが中心的な役割を果たすが、新しい要素として各ユーザーは自身のポートフォリオの作成・公開を簡単に行えるようにするため、新たに「Adobe Portfolio」と呼ばれる機能を準備中であることにも触れた。

今後のビジネス戦略

続いてSharma氏は、ビジネス的な側面も踏まえた今後の戦略として、「コアビジネス」、「マーケットの拡大」そして「バリューの拡大」の3つに焦点を当てていく方針を明らかにした。

今後の戦略の焦点はこの3つ

コアビジネスについては、そのターゲットが特に「教育関係」「商用」「個人」という3種類に分かれている。そこで、それぞれのターゲットに適したプランを用意するなどしてリーチを広げていきたいとしている。マーケットの拡大は、特に写真家を対象としたサービスを、もっと大きな客層に向けてリーチできるように広げていきたいという。プロの写真家だけでなく、写真の愛好家も積極的に参加できるようにするとのことだ。

そして3つ目のバリューの拡大だが、これについてはAdobe Stockの次の段階を考えているとSharma氏は説明した。例えばユーザーが自分の作品をAdobe Stockに追加できるようにしたり、逆にカスタマーが欲しいコンテンツをリクエストできるようにするなど、カスタマーとクリエイターが直接つながることができるような土台を作りたいとのことだ。

最後にSharma氏は、Creative Cloudにかける想いを次のように語った。

「Creative Cloudのビジョンは世界を変えるものです。アイデアを持っている人であれば、誰もが世界を変えることができるのです。アイデアを持った人がそれを簡単に世の中に出すことができるようにしたいと考えました。また、コミュニケーションをしたいという欲求を持っている人が、誰でも簡単にそれを行えるようにしたいと考えました。それが第1ステップでした。次に、どうやって世界中の人にCreative Cloudを使ってもらうかを考えました。Creative Cloudでは、単に作品を発表するだけでなく、そこからマネタイズする方法を提供していきます」