さる9月24日、住居事情の新しい潮流として注目される「近居」をテーマに、「近居会議~変化する家族と住まい考える~」と題したセミナーが開催されました。主催は、「多様な世代が生き生きと暮らし続けられる住まい・まちづくり」をめざす独立行政法人都市再生機構(以下、UR都市機構)。「近居」とはなにか? 「近居」が増えてきた背景やそのメリットなど、これからの新しいライフスタイルの形を講演。その内容をレポートします。


国土交通省によると、近居とは「住居は異なるものの、親世帯と子世帯が日常的な往来ができる範囲に居住すること」とされています。明確な数値による定義はなされていませんが、「およそ半径2km以内、徒歩約30分、車で約10分」ほどの距離感が一般的な目安とされ、そのライフスタイルがもたらすさまざまな影響が今、注目されています。近居では、子は親の家事や介助・介護など生活を援助し、親は子の育児を手伝うことで女性の就労も支援。そうした相互に助け合う関係性を築くことで、子育てをしやすい環境、コミュニティを作ることが近居の大きなメリットだと言われています。


セミナーは、神戸大学大学院人間発達環境学研究科教授であり、近居を推奨するひとり、平山洋介氏による基調講演からスタートしました。平山氏は、単身世帯の「個人化」が増える一方で、親子同居や近居といった「家族化」も増大傾向にあると分析。興味深いのは、このふたつの傾向は両極端でありながら同時に進行しているという点です。


セミナー冒頭、基調講演を行った平岡洋介氏。近居の促進を通して、地域持続可能な街づくりを提唱する

セミナー冒頭、基調講演を行った平岡洋介氏。近居の促進を通して、地域持続可能な街づくりを提唱する


「若い世代の未婚率は上がる一方で、そのまま生涯未婚のまま暮らす単身世帯が2030年には男性は3割、女性も2割に達すると言われています。そうした個人化の傾向の中でも、親と子の世帯が同居するケースは減っているわけではない。その中で近居という新しいスタイルも生まれるなど、家族化も同時に進んでいます。この現象をどうとらえるべきか。これは仮説ですが、家族の形として遠居から近居、そして同居へ移行していく流れがあるのではないか。近居を固定的にとらえるのではなく、ライフステージのひとつのパターンとしてとらえるべきなのではないかと考えています」


今、少子高齢化に加えて人口は都市部へ集中し、その結果、都市部では待機児童の急増や介護の担い手不足などの問題がクローズアップされています。こうした問題を解決すべく、政府は少子社会対策大網(27年3月に発表)に世代間の助け合いを目的とした「3世代同居・近居の促進」を盛り込み、国をあげて近居を推奨。独立行政法人であるUR都市機構でも、2年前から子育てや高齢者など支援を必要とする世帯と、それを支援する世帯が同じ近隣のUR賃貸住宅に住む場合、新しく入居した世帯の家賃を5年間5%割引く「近居割」のサービスを開始。今年の9月25日からはUR同士の近居のみ提供していたサービスを、URとUR以外との組み合わせでも「近居割」を適用する、「近居割ワイド」の新サービスを提供することが同セミナーで発表されました。この適用枠の拡大により、たとえば親世帯が住む戸建て住宅の近くのUR賃貸住宅に子育て世代が入居すれば、同機構の割引サービスが受けられることになりました。待機児童などの問題を早急に解決すべく取り組みが、近居をひとつのテーマに国を挙げて行われ始めたのです。


左からクロストークのMCを務めたフリーキャスターの根本美緒氏、平山洋介氏、花岡洋文氏。根元氏の「人々が自分たちが住む街を愛してもらいたい。ミクストコミュニティや近居を通して、そうした気持ちも受け継がれていければ嬉しいですね」との言葉でセミナーは結ばれた

左からクロストークのMCを務めたフリーキャスターの根本美緒氏、平山洋介氏、花岡洋文氏。根元氏の「人々が自分たちが住む街を愛してもらいたい。ミクストコミュニティや近居を通して、そうした気持ちも受け継がれていければ嬉しいですね」との言葉でセミナーは結ばれた


平山氏とUR都市機構の副理事長、花岡洋文氏によるクロストークで花岡氏は、「近居割ワイド」の導入を通して、団地を軸とした子育てコミュニティと、高齢者コミュニティがミックスした「ミクストコミュニティ」の形成をめざし、安心して長く住み続けられる環境作りを提唱。


一方、平山氏は、経済的に暮らしていけないから近居する、という消極的な理由ではなく、ライフスタイルのひとつとして近居を選べるような社会づくりが大切だと指摘します。もしも大きい災害時に家族が離れ離れに暮らしていたら・・・経済的な支援だけではなく、そうした不安を解消する安心こそ、近居の最大のメリットだとふたりはクロストークを結びます。今後、さらなる近居を促進する政策が打ち出されるか。注目していきましょう。