繊維メーカーのセーレンは9月16日、東京都内にて発表会を開催し、同社が開発した衣服のデジタルプロダクションシステム「Viscotecs (ビスコテックス)」を用いたパーソナルオーダーブランド「Viscotecs make your brand」を都内で展開すると発表した。

同ブランドは、2015年4月より福井本社にて展開する1号店に続き、高島屋日本橋店と新宿店の「エクセラウンジ」にて注文・販売を行っていく。

発表会には吉澤ひとみさん、松本伊代さんもゲストとして登場。中央右はセーレン代表取締役会長の川田達男氏

「Viscotecs make your brand」は、洋服のシルエットや色、柄を自由に組み合わせて注文することができるオーダーメイドシステムで、47万通りにおよぶ組み合わせを用意する。

消費者は、店内に用意されたiPadを使用し、好みのデザインや色、柄を選択。大型モニターで出来上がりのイメージを確認しながら検討できるほか、カメラで自分の姿を撮影すると大型モニター上でバーチャル試着をしながら実際に商品を着用した際のイメージを見ることも可能だ。決定した商品デザインは、そのまま同社の工場にあるプリント機やパターン裁断機に送信され、約3週間で商品が手元に届く。

iPadを操作しながらデザインや色・柄のイメージを自在に変えられる

モニターに備え付けたカメラで顧客の全身を3方向から撮影する

実際に着用したイメージを確認しながら商品の検討や組み合わせの変更ができる

同サービスを生み出した背景には、セーレンが培ってきた原糸製造や織編、加工、縫製までの繊維一貫生産機能にIT技術を融合させて構築した、独自のデジタルプロダクション技術「Viscotecs」の誕生があるという。

同技術では、自社開発した繊維用インクジェットプリンターを中軸として繊維生産の全工程をIT制御することにより、短納期化や多品種化、小ロット生産、在庫レス生産が可能に。ウールやシルク、コットンなどの天然素材、ポリエステルやナイロンといった合成素材、両者を組み合わせた複合素材などあらゆる素材を使った生産に対応し、1,677万色のフルカラープリントによる表現力によって付加価値の高い商品の生産ができる。また、従来の繊維生産工程に比べて水やエネルギーの使用量を1/20に抑えることも可能だ。

同社が開発した繊維生産技術「Viscotecs」の特徴

セーレン 代表取締役会長兼最高経営責任者の川田達男氏は、同ブランドを開発した背景として、情報化社会の成長によってファッション業界もビジネスモデルの転換が求められていると説明した。

「ファッション業界を取り巻く環境は、これまでの工業社会から情報社会へと大きく移りつつあります。大量生産で商品を生み出し流通させていたマスの時代、オン・スケジュールの時代から、必要なものや欲しいものを必要なときに届けるパーソナルの時代、オン・デマンドに変化し、サプライヤーが主導権を握る時代からユーザーが主導権を握る時代になりました。こうした時代の変化に対応するために、私たちは最新のIT技術を駆使して繊維生産技術『Viscotecs』を開発し、新しいビジネスモデルを生み出したわけです」(川田氏)

従来の「大衆向けに商品を大量生産していくビジネスモデル」から、「大衆を構成する顧客一人ひとりのニーズに合わせてカスタマイズされた商品を短納期で提供するビジネスモデル (マス・カスタマイゼーション)」へと転換していくことで、先進国ならではのモノづくりを実現していきたい考えだ。

「私たちが30年前から見ていた“夢”が実現した」と語る川田氏

ファッション業界におけるビジネスモデルの転換を目指す

また、セーレン Viscotecsファッション事業部長の牧野氏も、同ブランドの狙いとして、「ファッション業界全体のうち、その多くが大衆向けの売れ筋商品、ベーシックアイテムを中心に製造・販売していますが、ここには在庫というファッションビジネスにとっての大きなリスクが存在しています。しかも、売れるかどうかわからないものを作って売り場に並べている状況に対し、消費者は『欲しい商品がない』『既製品では物足りない』と感じているのが現実です。こうした現状を打破したいという想いで開発しました」と説明する。

売れるか売れないかわからないものは作らないという在庫レスの発想は、商品の生産コストの抑制に大きな効果を生み出す。売り場に並ぶ既製品に満足できない消費者をターゲットに、細かいニーズに対応した商品をオン・デマンドで生産・提供することで、在庫リスクを抱えずに顧客満足度と収益性の高い商品を生み出したいというわけである。

なお、同ブランドは、女性向けワンピースから展開を開始し、サイズは9号・11号・13号をベースに顧客の希望サイズ、袖や丈の長さに対応。今後は、商品バリエーションの拡充や男性向け商品の展開も検討していくほか、3週間という納期の更なる短縮も目指す。

同社によると、2015年4月に先行オープンした福井本社1号店での最多販売価格帯は、1着3万9千円~5万6千円程度で、オープンから600着ほどを販売するなど売上も好調。東京での展開開始により同社は、この事業で2018年に20億~30億円の売り上げを実現したい狙いだ。