VMwareは8月31日から4日間の日程で開催した「VMworld2015」において、ハイパーコンバージドインフラ(垂直統合型システム)の「EVO SDDC」を発表した。同製品は、昨年発表した「EVO:RACK」を刷新したもので、「ユニファイド・システムSDDC(Software-Defined Data Center)を実現させる完全自動化のソフトウェアスイート」(同社)との位置づけだ。2016年前半に同社パートナーを通じて出荷開始される予定だという。

IDCジャパンは、「2015年はハイパーコンバージドシステムが国内市場でも本格的に立ち上がる」と予測している。VMwareも「ハイパーコンバージドインフラは新しい市場セグメントだが、予想以上の急成長を見せている」と語る。

好調な市場に投入した製品を、わずか1年で刷新した理由は何か。そこにどのような意図があるのか。米国VMwareの副社長でEVOグループを率いるMornay van der Walt(モルナイ・ヴァンデル ヴァルト)氏と、同社EVO製品マーケティング&インテグレーションアーキテクトのBryan Evans(ブライアン・エバンズ)氏に話を聞いた。

米国VMwareの副社長でEVOグループを統括するMornay van der Walt(モルナイ・ヴァンデル ヴァルト)氏(左)、同社EVO製品マーケティング&インテグレーションアーキテクトのBryan Evans(ブライアン・エバンズ)氏(右)

わずか2時間でデータセンターが構築できる「EVO SDDC」

Evans氏は、「EVO:RAIL」と「EVO SDDC」の違いについて、「『EVO:RAIL』はアプライアンスでコアの部分を仮想化する製品。ハードウェア、ソフトウエア、5年間のサポート費用、サービス費用が一体となっており、トランザクション処理もシンプルだ。一方、『EVO SDDC』は、ストレージ管理やクラウドの自動化、ネットワークの仮想化といった大規模環境でSDDCを実現させるためのソフトウェアスイートになっている」と説明する。

販売方法も異なる。「EVO:RAIL」はデル、EMC、富士通、日立データシステムズ、ネットワンシステムズ、ネットアップといったOEMベンダーを通じて提供される。一方、EVO SDDCはデル、VCE、QCT(Quanta Cloud Technology)といった「EVO SDDCパートナー」からEVO SDDC対応のハードウェアを購入し、自社(あるいはシステインテグレーター)でEVO SDDCをインストールする形になる。

では、「EVO:RACK」を「EVO SDDC」と改名した理由は何なのか。Walt氏は、「EVO SDDCはハイパーコンバージドインフラを実現するものだが、ラックサーバを提供するのはパートナーだ。われわれは、よりソフトウエアにフォーカスし(EVO:RACKの)機能強化を実現してきた。そうした背景での名称変更だと考えてほしい。ただし、名称を変更したからといって、コンセプトや戦略に変更はない」と語る。

EVO SDDCに包含されるコンポーネントは、ITサービス自動化ソフトウェアの「vRealize Suite」、ネットワーク仮想化ソフトウエアの「VMware NSX(6.2)」、ストレージソフトウェアの「VMware Virtual SAN(6.1)」、仮想化基盤である「VMware vSphere(6)」で、これらすべてのソフトを総合的に管理するのが、EVO SDDC専用の管理ソフトである「EVO SDDC Manager(以下、SDDC Manager)」だ。SDDC Managerはインフラとソフトウェアの両方を統合管理するソフトウェアであり、物理環境のToR(トップオブラック)スイッチも管理対象となっている。同社は「EVO SDDCであれば、ゼロベースから2時間でデータセンターが構築できる」と強調する。

「EVO SDDC」に包含されるコンポーネント

ラックサーバは、3分の1の規模からサーバ1台を追加単位として拡張することが可能。各ラックで最大1000台の仮想マシン(VM)、もしくは2000超えるデスクトップ仮想化(VDI)をサポートするという。

EVO:RAILとEVO SDDC、どう使い分けるか?

Evans氏は「『EVO:RAIL』と『EVO SDDC』の両方を、状況に応じて使い分けてもらえれば、その相乗効果は大きい」と期待を込めて語る。

「どのような大規模企業でも、リモートオフィスやブランチオフィスは存在する。そうした"エッジ環境" は、専任のIT管理者がいなくても構築できる『EVO:RAIL』が最適だ。実際、われわれの大規模顧客でも、エッジ環境はある。そうした(EVO:RAILのような小規模の仮想化)環境を『EVO SDDC』に複製できる。両者とも(配下にある技術は)vSphereがベースなので、バックアップや複製がスムーズだ」(Evans氏)

ただし、「ハイパーコンバージドインフラが日本で本格的に浸透するには、課題がある」と指摘する声もある。それは、システムインテグレータの存在だ。日本においてEVO SDDC規模の環境構築は、ユーザー企業ではなく、システムインテグレータが担当する。

「EVO SDDCはシステムインテグレータの仕事を脅かす存在になるのでは?」との指摘に対し、van der Walt氏は、「日本では、システムインテグレータをセールスサイクルに組み込む方法を考えている。顧客がシステムインテグレータを通じた環境の構築を望んでいるのであれば、それに追随する」との方針を示した。

展示会場では、「EVO SDDC」を搭載したハードディスクが展示されていた