19日に公開を控える映画『ボリショイ・バビロン 華麗なるバレエの舞台裏』に向けての特集番組が、9月12~18日にかけてクラシック音楽専門チャンネル「クラシカ・ジャパン」で放送される。公開に際して、ボリショイ・バレエ団のプリンシパル・ダンサーを務めるマリーヤ・アレクサンドロワが来日し、同バレエ団や映画への思いを語った。

ボリショイ・バレエ団プリンシパル・ダンサーのマリーヤ・アレクサンドロワ

本作は、世界三大バレエ団の一つとされており、創立以来200年以上も閉ざされ続けた、ロシアの同バレエ団の裏側を捉えたドキュメンタリー映画。2013年に内部抗争によって起こったとされる、元ソリストで芸術監督のセルゲイ・フィーリンが何者かに硫酸を浴びせられるというショッキングな事件の背景にも迫っている。

アレクサンドロワがダンスを始めたのは4歳半の頃。8歳の時、映画に触発されて芽生えたバレエをやりたいという思いは「人生で最初の強い思いであり、人生最初に決めたこと」だった。その理由について「この職業が世界とのつながりや生き方を教えてくれたから。当時、大人の世界が怖かったんです」と述懐する。

その後、ボリショイ・バレエに入団したアレクサンドロワは、そのスタイルについて「世界観や印象はメイン・ホールの色彩にあります」「華麗で生き生きとし、非常に情緒的、そして、とても巨大」と表現。「こんな劇場は他にはないと、舞台に立つと感じます」とも付言する。また、「ここが私の劇場で、私がいるべき場所だと感じるんです。自分が劇場の一部のように思えます」と深い感慨を持っている。

人生のつらい経験もダンスの助けになると話すアレクサンドロワ。そこには「自分の身に降りかかった苦難に対して、"どうして?"と考えることは無駄になりません」という気持ちがある。「その疑問を役作りの際に投げかければいいのです。その人なりに、舞台の上で疑問を昇華するために」と語り、プロフェッショナルな一面をのぞかせた。

2週間もの間、「見るのが怖かった」事件の舞台裏にも迫った映画

映画については、「見るのはつらかったです」と率直に告白。やはり事件の裏側をも映しているからだ。一方で、「とても正確に詳細を描き出しており、真実を伝えています。述べられたコメントも、全ての面で非常に誠実でした」と、その出来には称賛の声をあげている。同時に、「ショックを受ける人もいるでしょうし、課題を見つける人もいると思います。理解できない人や無関心の人、感動する人もいます」とした上で、「私としては見るのは怖かったですね」「2週間は見ようとしませんでした」と繰り返す。本作の製作・共同監督を務めたマーク・フランチェッティに「見るように」と勧められたことから、決死の覚悟で鑑賞したという。

劇中でも描かれている事件を知ったのは、当日の深夜。「何かの間違いではないか」と思ったが、翌朝にネットで調べたところ「想像を絶する悲劇」だと認識した。「とてもショックだったのは、劇場内で人々がおびえる様子でした」と振り返る。誰もが何が起こったのか理解できず、控室を覆ったのは「本当かどうか、信じるか信じないか」という疑念の空気だった。

そのような中、懸念していたのは「外部からの影響」。「全く無関係な人々が、私たちを分類しようとしていたんです。誰が善で誰が悪か、見方か敵かなどと」「その時に私に分かっていたのは1つ、私たちを左右する力の介入を許してはいけないということでした」と、その光景を思い浮かばせるかのように回顧する。

ボリショイ・バレエは「私の人生」そのもの

衝撃的な事件だったが、それでも「ある意味、ボリショイ劇場は人間と同じです。偉大で自尊心のある非凡な人間。人生において大きな悲劇を経験しても乗り越えようとしている。常に前を見ているのです」と捉えている。最後に、あなたにとってボリショイ・バレエとは何かと尋ねられたアレクサンドロワは「私の人生です」と回答。さまざまな苦境を前にしても、バレリーナとして心身をささげる意志を言葉にした。

『映画「ボリショイ・バビロン 華麗なるバレエの舞台裏」公開記念 華麗なるボリショイ・バレエの栄光』と題された特集番組は、「クラシカ・ジャパン」で9月12~18日にかけて放送。また、映画公開日の9月19日はボリショイの歴史を時系列に沿って追う番組を一挙放送することも決定している。なお、このたび報道陣に向けて行われたインタビューの模様は、10月に同チャンネルの「クラシカ・音楽人<びと>」で公開される。

特集番組『映画「ボリショイ・バビロン 華麗なるバレエの舞台裏」公開記念 華麗なるボリショイ・バレエの栄光』放送スケジュール

番組名 放送日時
『ドキュメンタリー「ボリショイ・スタイルを求めて」』 9月12日 21:00~21:55ほか
『プリセツカヤの「白鳥の湖」1976』 9月13日 21:00~23:25ほか
『ボリショイ・バレエ1979「スパルタクス」』 9月14日 21:00~23:25ほか
『ボリショイ・バレエ1978「くるみ割り人形」』 9月15日 21:00~22:50ほか
『ボリショイ・バレエ1978「ドン・キホーテ」』 9月16日 21:00~23:00ほか
『ボリショイ・バレエ1991「ジゼル」』 9月17日 21:00~23:00ほか
『セルゲイ・フィーリンに聞く! 新生ボリショイ劇場』 9月18日 21:00~21:15ほか
『新生ボリショイ劇場 オープニング・ガラ』 9月18日 21:15~23:10ほか
『ボリショイ・バレエ・イン・ロンドン1956』 9月19日 9:55~11:45ほか
『映像でたどるボリショイ再生への道』 9月19日 22:15~23:20ほか

photo:Jiro Nakajima