マーケティング・プロセスを縦軸とすると、横軸になるのがマーケティング・アナリティクスである。前編では、マーケティング・アナリティクスがマーケティング部門の意思決定を支援するプロセスであり、他社との差別化を行うためのカスタマーインサイトを得るために行うべきと説明した。

後編となる今回は、マーケティング・アナリティクスから最大の効果を得るための最新テクノロジーについて考えてみたい。

高速アナリティクス・プラットフォームが登場した理由

マーケティング部門は多様なデータソースを基に顧客(見込み顧客を含む)に相対し、効果的な意思決定を行わなくてはならない。近年、顧客との接点はWebだけではなくソーシャルメディアやモバイル・アプリケーションにまで拡張した。そのため、伝統的な基幹情報システムの中に蓄積している顧客データや製品データを組み合わせた分析にとどまらず、SNSのテキストデータに代表される非構造化データを分析し、マーケティング活動が集客や売上をもたらしたかどうかを評価したいと考えるようになった。

企業がこのような新しいテクノロジーを導入した結果、分析のためのデータソースが多様化した。一方で、データ環境の分断がこれまで以上に進行し、マーケティング部門の迅速な意思決定を阻害するようになった。この問題を解決するため、爆発的に増え続ける非構造化データと構造化データの区別なく、タイムリーに価値あるデータにアクセスし、必要な情報を得たいと考える企業に向け、プラットフォーム・ベンダー各社は高速なデータ・アナリティクスを実現する製品を拡充している。

マーケティング・アナリティクスにおいて重要なのは、顧客や見込み顧客の行動の変化という兆候をつかむことであり、タイムリーなデータ・アクセスはマーケティング部門にとって必須の要件である。

進化するアナリティクス・テクノロジー

リアルタイムにカスタマー・インサイト(洞察)を得ることのできるアナリティクス・プラットフォームが登場したことで、テクノロジーを活用する企業は、過去のデータを基に傾向分析を行う伝統的なビジネス・インテリジェンス(BI)からの脱却を迫られている。

さらに、アナリティクス・テクノロジーの進化はリアルタイム(ニアリアルタイムの場合もある)分析にとどまらない。次世代のアナリティクス・テクノロジーとして注目を集めているのが、現在起きていることのパターンを解析し、将来起こりうることを予測する「プレディクティブ・アナリティクス」である。

パターンとは行動イベントの集合でもあり、リアルタイムに現在起きていることを把握できていることが前提となる。プレディクティブ・アナリティクスの第一人者であるEric Siegel博士は、プレディクティブ・アナリティクスを「経験的証拠(データ)から学習して、ミクロレベルの主体(企業や個人)の未来のふるまいを予測し、よりよい意思決定に導くテクノロジー」と定義している。

アナリティクスの進化モデル 出典:James R. Evans, " Business Analytics: The Next Frontier for Decision Sciences"を基に作成

最新アナリティクス・テクノロジーのマーケティングへの適用

ビジネス・アナリティクス(BA)は経営層の意思決定を支援するものであり、分析軸は主として事業になる。これに対し、マーケティング・アナリティクスはカスタマー・インサイトを得ることを目的に実施するため、製品やサービスという観点よりも、顧客という観点をより重視した分析を行う。

カスタマー・インサイトを得る目的は、究極的には業績への直接的な貢献を達成するためであり、マーケティング・アナリティクス活用のゴールは意思決定を武器にした売上への貢献である。

では、意思決定で望ましい結果を得るにはどうすればいいのか。その成果を評価する指標は、顧客生涯価値(Customer Lifetime Value:特定の顧客から得られる生涯利益で、LTVもしくはCLVと略される)である。

プレディクティブ・アナリティクスが期待されているのは、顧客生涯価値の最大化に貢献するためである。顧客生涯価値を最大化するために行うべきことは、新しい顧客をできるだけ少ない費用で獲得すること、既存顧客から得られる利益を増やすことの2つに大別される。

マーケティング・オートメーション(MA)が得意とする見込み顧客に対するプレディクティブ・アナリティクスの活用方法としては、キャンペーンの実施を判断するためのシミュレーションや、オーディエンスに対して提供する情報・コンテンツが適切か否かを判断するための行動予測といった分野が考えられる。

既存顧客に対するプレディクティブ・アナリティクスの活用方法としては、頻繁にサービスを乗り換える顧客(チャーン)の予測や、顧客の支払い意欲に応じた弾力的な価格や割当量の提供を実現するイールドマネジメントといった分野が考えられる。

いずれも行動に基づいて顧客生涯価値向上のための意思決定を支援する分野への適用であり、プレディクティブ・アナリティクスは企業にとって顧客が製品・サービスに求める要件を深いレベルで理解することに役立つ。