シーメンスPLMソフトウェア グローバル・セールス、マーケティング、サービス担当エグゼクティブ・バイスプレジデントのトニー・ヘミルガン氏

近年、製造業にとって重要なキーワードとなっているのがドイツ発の「インダストリー 4.0」だ。「インダストリー 4.0」は、「センサーによって情報を収集したデータを活用する」というIoTのコンセプトを製造業向けに拡張させたアイデアで、工場をネットワーク化して製造プロセス全体を最適化することを目指している。

製造業をデジタル化していくという点で、キープレーヤーとなるのがソリューションベンダーだ。今回、「インダストリー 4.0」発祥の地・ドイツにグループ本社があり、製造業と密に関わってきたシーメンスPLMソフトウェア(シーメンスPLM)のグローバル・セールス、マーケティング、サービス担当エグゼクティブ・バイスプレジデントであるトニー・ヘミルガン氏に時間をもらい、同社が「インダストリー 4.0」において何を重視しているのか、話を聞いた。

データを設計に活用するだけでは不十分

ヘミルガン氏によれば「インダストリー 4.0」では「シームレスなインテグレーション」が重要だという。直訳すれば「途切れのない統合」ということになるが、具体的には何を統合すれば良いのだろうか。IoTでは、製品ライフサイクルにおける、運用フェーズの製品データを集めて設計フェーズにフィードバックするというサイクルの構築が重要とされる。しかし、同氏は「それだけでは十分ではない。」と語る。

「設計(Ideation)と運用(Utilization)フェーズの間には製品の実現化フェーズ、つまり製造(Realization)フェーズがある。設計・製造・運用のフェーズをシームレスに統合しなければならない。製造というフェーズには制御系・保守メンテンナンス・製造管理・設計・シミュレーションなどさまざまな要素が含まれるが、それらを包括的に統合することで、より確実な意思決定ができるようになる。」(ヘミルガン氏)。

しかし、「シームレスな統合」を進めるといっても、「インダストリー 4.0」がカバーしている範囲があまりに広範で、実際に取り組みを始めようとしてもどこから手を付けるのが良いのかわかりづらい。この点について同氏は「CAE、製造、サプライチェーンなどお客様の強みによって始めるポイントは異なるが、その前にコラボレーションを可能とするためのプラットフォームの構築が必要となる。」とする。CAD・CAE・PLMといったソリューションは製造業のデジタル化において重要なツールだが、それぞれを有機的に運用することができるプラットフォームが整備されていないと「シームレスなインテグレーション」は不可能というわけだ。

製品のスマート化に対応するためには「Digital Twin」が必要

また、ヘミルガン氏は製品のスマート化という点でもプラットフォームの重要性を指摘する。「ソフトウェアとメカニカルが統合されたスマート製品では、機能が複雑化している。だからこそ(コラボレーションが可能となる)プラットフォームが必要となる。サプライヤーも自分たちが製造している部品を複雑化した製品にフィットさせなければならない」ためだ。

同氏は、複雑化する製品に対応するための具体的なソリューションとして「Digital Twin(デジタルの双子)」というシミュレーションの方法を挙げる。物理的なモデルに限りなく近いバーチャルモデルを用いることで、より複雑な解析を効率的に行うことが可能となるのだ。同社は解析ソリューションの強化にも余念がなく、2013年にはLMSという構造解析ソリューションの会社を買収している。

もちろん、収集したビッグデータは活用しなければ意味が無いわけで、シーメンスPLMではOmneoというビッグデータ解析ソリューションを提供している。「OmneoはDELLやBOSEが採用しており、この先数年で拡大していく」とヘミルガン氏は考えており、この分野は現在エレクトロニクス業界が最も進んでいるものの、今後、自動車や機械産業に広がっていくと予想している。

「まだまだ道は長いが、シーメンスPLMは抜きん出ている」

「インダストリー 4.0」における製造業のデジタル化に向け、力強く進み続けるシーメンスPLM。ヘミルガン氏は「『インダストリー 4.0』についてはまだまだ道は長いが、シーメンスPLMは抜きん出ている」と胸を張る。

この自信は、シーメンスPLMのビジネスが好調であることにも裏付けられている。同氏によれば同社がビジネスを展開しているすべての地域で成長しており、中でも製品のスマート化が年々加速している自動車業界では高い成長を見込んでいるという。

社会のIoT化に伴う「スマート製品」の増加によって、「インダストリー 4.0」が製造業にとって持続的な競争力を確保する上で避けては通れない道となった今、製造業のデジタル化を強力にバックアップするシーメンスPLMの動向に今後も注目する必要がありそうだ。