先日一般販売が開始され、予約開始からわずか1分で1000台が完売したことで話題となったソフトバンクロボティクスのヒト型ロボット「Pepper」。みずほ銀行やネスレ日本が導入を決定するなど、着実に産業界へ広がりを見せているが、その活用範囲は教育分野にも及んでいる。

東京都品川区にある品川女子学院では今年の5月より、中学2~3年生の生徒を対象に「学校にいてほしいPepper」をテーマにPepperのアプリ企画・開発を課外授業として行っている。同授業は、第1フェーズのアプリ企画会議で生徒が発案したアプリを第2フェーズで生徒自身がプログラミングしていくという構成で、Pepper向けのアプリ開発などを手がけるヘッドウォータースが協力している。

笑い声が飛び交う「開発現場」

今回取材したのはその第2フェーズにあたる授業。生徒たちは第1フェーズのアプリ企画会議で採用された「登下校する生徒を笑顔にし、写真撮影するPepper」、「来校者に対して校内案内するPepper」「保健室に来た生徒を癒すPepper」というアプリを実現するために、Pepperにどのような動きをさせ、何を喋らせるか、それをどのようにプログラミングで実現するかという課題に取り組んでいく。

授業はまず取り組むアプリごとに3つの班に分かれ、ブレストを行ったあと2~3人1組でプログラミング作業へと移っていく。各班には同校の先生とヘッドウォータースのスタッフが1名ずつサポートにつくが、先生たちはあくまでサポートであって生徒たちは自分たちの力でアプリの完成を目指す。ちなみに、生徒たちが使用しているのは「Choregraphe」というSDKで、ドラッグアンドドロップでプログラムを構築していくことが可能だ。

授業の様子。(左)まずは班ごとにブレスト。(中)その後2~3人のチームで開発を進めていく。(左)ある程度プログラミングが終わったら実機でテスト。

アプリの開発というとプログラマが黙々と作業を進めるイメージだが、ここは学校である。生徒たちの笑い声が飛び交い、実に賑やかに授業は進んでいく。

プログラミング作業を終えると、各班から1作業チームずつ実機での発表へと移る。全ての班が思う通りにPepperを動かせたわけではなかったが、動いて喋るPepperに対し「かわいい!」などと歓声が上がっていた。

実機での発表。

狙いは「アイデアの実現」を体験させること

このようなプロセスで生徒たちはPepperの開発を進めていくわけだが、授業の狙いはプログラミングの習得ではない。

同校の情報科主任である酒井春名 先生は「『アイディアを作る』ことと『プログラミング』を分けたことがポイント」と語る。プログラミングを覚えさせるだけなら、アプリのアイデアは教える側から提示すれば良いわけで、企画段階を含めることによって「アイデアをかたちにすること」を生徒たちに体験させているのだ。その点で、取っ付きやすいSDKが用意され、実機でのテストが容易なPepperは教材として優秀だという。

授業中の生徒たちを見ると、学校側の狙いは見事にハマっているといえる。Pepperが動く様を見て一喜一憂する彼女たちはとにかく楽しそうなのだ。一際大きな笑い声をあげながら作業をしていた2人組に、何がそんなに楽しいのか聞いてみたところ、彼女たちは「Pepperが間違っておかしな動きをするのが楽しい」と答えた。プログラミングを間違えて、Pepperが意図しない動きをするのが可笑しかったので笑っていたのだ。彼女たちはこうした「間違えた動き」が面白ければ、アイデアに採り入れることもあるのだという。

間違えを楽しみ、時には採り入れながら開発を進める彼女たちの姿は「アイデアをかたちにすること」の大変さと素晴らしさを体現しているといえるだろう。