三池崇史監督が"原点回帰"をテーマに臨んだ映画『極道大戦争』が6月20日から公開される。この主役に起用されたのが、俳優・市原隼人。かつて、ドラマ『カラマーゾフの兄弟』(13年)では1日1個の飴玉で過ごして体重を49キロまで落とすなどストイックな役作りが当時話題になったが、本作では「噛んだ相手をヤクザ化させてしまうヤクザヴァンパイア」という役柄とどのように向き合ったのか。今回のインタビューでは、彼の"芯"となる役者道を掘り下げていく。

俳優の市原隼人 撮影:大塚素久(SYASYA)

――血を吸われた人間が"ヤクザヴァンパイア"になってしまうという、奇想天外なストーリー。"ぶっ飛んでいる"という言葉がふさわしい作品だと思いますが、オファーを受けての第一印象は?

ボーダーラインを崩すような作品だと思いました。それが、映画の概念なのか、登場人物のそれぞれの感情なのか、一般的な常識といわれるものか……何か分からないんですけど、何かを壊すことができるんじゃないかという期待がありました。

でも、台本を見てもどんな現場になるのか、それぞれがどんなキャラクターで、どんなふうに映るのか、全く想像ができなかったですね(笑)。劇中に"KAERUくん"が登場するのですが、現場では着ぐるみとしてではなくて一人の役者として接していました。それだけでも、異様な空気感だったことが分かりますよね。

――何かもがイメージとして掴めない場合は、不安が先行しそうですが。

三池監督ですから不安はなく、むしろ楽しみで胸が躍ることばかりでした。撮影がスタートしても分からないことだらけで、「次にどんなことを言われるのか全く想像できない」のも三池監督の魅力です。毎日、「明日現場で何を言われるのかな」と思いながら過ごしていました(笑)。僕が演じた影山というキャラクターも自由に演じさせていただきました。今回の作品には、個性的なキャラクターが数多く登場します。まるでテーマパークの乗り物のように次々と(笑)。その中でどうあるべきかを自分の中で模索しました。

(C)2015「極道大戦争」製作委員会

――役者として、充実した時間を過ごすことができたわけですね。

いろんな世界の人間が一箇所に集まっているような作品。だからこそ、それぞれが模索しつつも、精一杯遊びながらやっている感じでした。こんな現場は今までありません。撮影を終えて思うのは、本来の映画はこういうものじゃないのかなと。家で犬を撮って1つの作品にしたり、身内で思い出を残すために作品にしたり。「誰に向けるのか」や「何のために」というよりも前に、まず現場で1つの作品を作り上げることに対して情熱を感じることができた作品でした。

三池組をすごく敬愛しているのは、全員のベクトルが同じ方向でも、衣裳、メイク、照明、撮影、装飾……みんなが暴れているところ。監督は相手を信じることも1つの務めだと思うんですけど、それができる方ってなかなか少ないと思います。枠にはめていくのもそれはそれで素晴らしいですが、三池さんのように信頼するスタッフに委ねながら現場で撮っていくのもまた素晴らしい。三池組には、職人という言葉がふさわしい人が集っています。

――三池組は2008年の『神様のパズル』以来でしたね。今おっしゃったような魅力は、当時も感じましたか。

あの頃は……そこまで深く考えていなかったと思います。ただただ、自分のことにがむしゃらで。今振り返ると、すべてが今回の作品のような現場でした。スタッフ含め、全員のボルテージが高い。そのために三池さんは「待つ」ことも惜しみません。

だからこそ、生半可なことはできないという意地みたいなものが、それぞれに宿っていて、そんな空間にいるとすごく気持ちいいんですよね。映画作りが単なる商業的なものじゃなくて、物づくりとしてまだまだ熱かった時代を彷彿とさせるような環境だったと思います。

――本作ではアクションスターのヤヤン・ルヒアンさんが、市原さんの前に刺客として立ちはだかります。激しいアクションシーンもありましたが、撮影に備えての準備や役作りは?

役作りについては特に何も言われていません。体づくりも、ただパンプアップして作るのもあまり好きではなくて。例えば格闘技のトレーニングを積んでついた筋肉のように、「何かをするための筋肉」じゃないとダメなんです。今回は、現場に入る前にヤヤンさんとトレーニングしました。