6月12日にPEZY ComputingとExaScalerは、高エネルギー加速器研究機構(KEK)にスーパーコンピュータ(スパコン)「ExaScaler-1.4(ES-1.4)」の設置を始めたことを発表した

この時期にES-1.4の設置を発表するのは、この7月にはGreen500のランキングを前回の2位から引き上げて1位を狙うという意図があるのは明らかである。この新しいKEKのES-1.4システムは、「Suiren Blue(青睡蓮)」と命名されているという。

Suiren Blueは16ブリック構成であり、最終的には次の写真の液浸槽一杯になる予定であるが、この写真では右下の2ブリックだけが実装された状態となっている。

設置途中のExaScaler-1.4スパコン (写真提供:PEZY Computing)

液浸槽内に立っているのはブリックを保持するガイドレールであるが、少し背の低い角柱は、冷媒のフロリナートを噴出する吐出柱である。ES-1.4の液浸槽は、このように25本の吐出柱を備えて、冷媒が均等に行きわたるようになっている。

次の写真は少し斜めに液浸槽を覗き込んだもので、白いヒートシンクはXeon CPU、黒いヒートシンクはPEZY-SCのものである。PEZY-SCモジュールはXeonモジュールの上下にそれぞれ2個ずつあるが、この写真では見込む角度が浅いので2個のヒートシンクは一続きに見えている。

そして、右端の液浸槽の壁を見るとフロリナートの液面の線が見えるが、ブリック全体が液浸されているのではなく、発熱体が少ないブリックの上部は液から顔を出している。このため、InfiniBandなどのケーブルのコネクタはフロリナートに浸かっておらず、抜き差しが容易であるという。なお、写真に見える電源のファンは取り外していないが、使用しておらず、冷媒に浸かっても問題ないという。

ES-1.4の液浸されたブリックのクローズアップ (写真提供:PEZY Computing)

前回の記事では、ES-1.4は、7月は無理で11月を狙っていると思われると書いたが、それは間違いで、PEZYの齊藤社長はアグレッシブに7月のGreen500を狙っている。しかし、発表されたのは、設置を開始したということだけで、どの程度のGFlops/Wであるかなどの情報は明らかにされていない。競合他社に手の内を見せたくないということもあるし、まだ、KEKのSuiren Blueでの実測を行っていないので、確実なことは言えないという事情もあると思われる。

いずれにしても、KEKのSuiren Blue用に、64ノード、256 PEZY-SCのシステムが製造されて設置が進んでおり、この記事が掲載される頃には、すでに設置が完了して6月26日締め切りのTop500や6月30日締め切りのGreen500の登録データの測定が行われていると思われる。

睡蓮や、今回追加される青睡蓮は64ノード、256 PEZY-SCのシステムであり、高価なフロリナート冷媒を使う液浸冷却システムなどを考えると、そのコストは部品代だけでも1億円以上にのぼると思われる。

PEZYグループのExaScalerは、6月5日のプレスリリースで富士通のコーポレートファンドからの出資を受け入れ、共同で液浸冷却の開発や事業展開などの協業を行うと発表している。PEZYグループは、このような他社や投資家からの出資と、次に述べるNEDOの補助金などで開発費を賄っている。

6月10日にNEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)は、平成27年度戦略的省エネルギー技術革新プログラムの第1回公募の開発テーマの採択結果を発表した。

NEDOの開発プログラムは、初期段階のインキュベーション研究開発、プログラム終了後3年以内に商品化を目指す実用化開発、プログラム終了後、速やかに商品化を行う実証開発の3つのカテゴリがある。インキュベーション研究開発は2000万円/年程度で期間は原則1年以内、実用化開発は3億円/年程度で原則2年以内、実証開発は10億円/年程度で原則2年以内と実用化に近いカテゴリほど予算規模は大きくなっている。ただし、NEDOが補助してくれるのは、インキュベーション研究開発と実用化開発では2/3、実証開発では1/2で、残りは自分で負担する必要がある。

6月10日に発表された来年度の実証開発の採択テーマは、グローバルウェファーズジャパンのチョクラルスキー法を用いた高品質・大口径Si-IGBT用ウェハ技術の開発とPEZYの非接触型磁界結合通信を用いた高密度実装プロセッサデバイスの開発の2件である。

半分の10億円はPEZYで調達する必要があるが、今後2年間で合計20億円を投じて、PEZY-SC2やその非接触型磁界結合通信を用いたメモリ接続技術の開発に、資金的な裏付けが付いたことになる。

一般に、ベンチャーの小企業がこのような巨額の資金を必要とする開発を行うことは難しいのであるが、PZEYグループの場合は、Top500、Green500などで良い成績をあげて、その技術をアピールし、共同研究や出資の呼び込みやNEDOの実証開発のテーマ採択などに結び付けて、さらに資金を集めるというサイクルをうまく回すことに成功していると思われる。