今使っているアプリを切り替えず、別のアプリを操作する

iOS 9でiPad向けに用意された「特別」な機能は、マルチタスク機能だ。

これまでiPhoneでもiPadでも、1つの画面には1つのアプリのみを表示し、ホームボタンの2度押しでアプリを切り替えて利用してきた。メッセージでは届いた通知にそのまま返信することができるが、基本的にはアプリを切り替えて操作することが、iPhoneと共通するiOSのルールだった。

iOS 9を導入したiPadで、このルールが変わることになる。

iOS 9でマルチタスクに対応するiPad。画面左端に、小さなiPhoneのような画面を呼び出し、別のアプリを操作することができる

「マルチタスク」(Multitasking)への対応だ。文字通り、複数のアプリを同時に動作させ、操作する事ができるようにする機能だが、iPadの画面サイズと、人が対応しうるアプリ数、すなわち2つのアプリに絞って、1つの画面に表示することができる。

闇雲に2つのアプリを表示できるようにしなかったのはAppleらしい。マルチタスクの初期体験は、画面の左端からスワイプして現れる、横幅が小さなサイズでのアプリ利用から始まる。ちょうど引き出しを開けるようにして、今使っているものとは違うアプリを呼び出し、操作する事ができる仕組みだ。

例えば「Safari」でWebページを見ている時にちょっとメモを取りたくなった場合、左端から「メモ」アプリを呼び出し、キーボードからメモを取る。終わったら再び左端にアプリをしまい、「Safari」に戻ることができる。同様に、「メッセージ」アプリのスレッドを表示したり、「地図」アプリや「カレンダー」などを表示し、主たるWeb閲覧の作業を終了させずにアプリ操作が可能になる。感覚としては、収納可能なiPhoneの画面で別のアプリを操作できる、といったところだろう。

マルチタスク機能はiPhoneとの大きな差別化になる

また、引き出しのように表示させたアプリを、そのまま画面に固定すると、2つのアプリを同時に表示し続けることができる。当然タッチ操作は両方のアプリで常に利用でき、左右分割された画面内を同時にスクロールすることができる。そして、分割の幅も変更できる。

マルチタスクのアプリを切り替えることもできる

再び使い方の例に戻るが、「Safari」で調べ物をしながら「Pages」でレポートを仕上げることができる。例えばWWDCのようなイベントのテキスト中継を行う場合であれば、左画面でストリーミングを再生しながら、右の画面でTwitterなどのソーシャルメディアに書き込むという使い方も実現できる。少し込み入った作業をする際にはMacやPCに頼っていたことが多かったかもしれない。しかしそれでも、同時に表示するアプリの数は2、3程度であることが多い。こうした作業を、マルチタスク機能によって、iPadで行えるようになる。

iPhoneの画面サイズでは実現できない、画面を分けて2つのアプリを表示し、しかも同時に操作可能な仕組みを、マルチタスク機能で実現できるようになった。このことは、画面サイズが大きくなったiPhoneに対する、iPadの大きな差別化要因となるだろう。なお、マルチタスク機能には、デバイスによって制限がある。iOS 9はiOS 8が動作する製品にインストールすることが可能で、引き出し型のマルチタスク機能を利用する事ができるが、画面分割に対応するのは現状ではiPad Air 2のみとなる。

ビデオの子画面再生

マルチタスク機能はビジネスの現場でのiPadの生産性を高めてくれるだけでなく、頻繁にコミュニケーション系のアプリの通知が届く個人での利用にも威力を発揮するはずだ。

ストリーミング再生しているアプリやSafari内のビデオを子画面として残し、他のアプリを利用する事ができるようになった

今やっていることがこれらのアプリに中断されないというメリットがiPadに備わり、iPadをより快適に感じ、使う時間が延びるかもしれない。このことは、低迷しているiPadの販売に、追々刺激を与えていくことが予測できる。

加えて、ホームユースでさらに強力な魅力を放ちそうなのが、ストリーミングの子画面再生だ。アプリやブラウザなどで視聴しているビデオを、子画面として残し、ホーム画面に戻っても、別のアプリを操作することができるようになった。バックグラウンドでもビデオ再生が止まらず楽しめる。ビデオを見ていて分からないことを「Safari」で調べたり、前述のように同じストリーミングを見ながらコミュニケーションで盛り上がることもできるだろう。また授業のビデオを見ながらWebや「iBooks」の教科書を開いたり、ノートを取る、という学習での使い方も実現する。パソコンなしでの効率的な学習体験を実現するという点で、非常に注目すべき活用方法となるだろう。