サイバーエージェントのグループ企業のひとつである、CyberZ。とにかく即戦力を求められることが多いIT業界において「人間力」を高めるための施策を生み出しているというのだ。「グランドデザイン」と呼ばれている人材の土台作りについて、代表取締役の山内隆裕氏に話を聞いてみた。

山内隆裕
立教大学を卒業後、2006年にサイバーエージェントに入社。2007年には、社内年間最優秀新人賞受賞を受賞し、一躍ホープとなる。その後グループ内2社の立ち上げを経験し、2009年にCyberZ 代表取締役に就任。当時、ガラケーの広告向けマーケティングを中心としていた事業から、2011年の2月にスマホを軸にした路線変更を行い業界内にソリューション革命をもたらした

人材育成の軸になるグランドデザイン

――強い組織で強い人材を育成するためにどんな工夫をしているのですか?

私個人としては、組織のマネジメント論には2つのパターンがあると考えています。社員個々に対してマイクロマネジメントしていくパターンと、入社してから退社するまで形を決めて、その路線に沿ったキャリアデザインを形成するパターンです。当社では、それを「グランドデザイン」と呼んでいまして、若手からベテランまですべての人に共通して持ってもらっています。

「グランドデザイン」の中核になるのは徹底的な企業風土です。その企業風土をつくる人材には時間の投資を惜しみません。その投資の1つが面談です。半期ごと、3カ月ごと、もしくは月ごとに区分けて行っていますね。新人メンバーは週ごとになるケースもあります。それぞれのタームごとにケアすべきポイントを細かく変えていく。これを大切にしています。

たとえば半期ごとの面談では長いスパンでキャリアビジョンと評価を行い、3カ月の場合は半年よりも少しミドルのタームに焦点をあて、月の面談だと社内の行動指針の中でどれを一番体現できたか、定性と定量目標などを達成できたかを見ます。

柔と剛を織り交ぜた人材活用の考え方

――面談というアナログな手法を大事にしながら、しっかりと目標管理をしているわけですね?

当社は、基本的に高めの目標設定をするケースが多いです。すると、一般的には個人の目標も高くなりますから、余裕がなくなってきてギスギスしてしまうというジレンマが予想できます。ひとりが目標に届かないと「お前が達成できてないからチームの達成もできない」と攻撃的になってしまうばかりか、社員同士が仕事の話しかしなくなってしまうかもしれない。

――そこで悩んでいる企業も少なくないはず

私はそういう雰囲気が生まれる前に、仕事以外の話をする場を会社として用意しています。社員旅行でも飲み会でもいいし、当社の場合は体育祭をやったりもしていますね。本音トークができるような場をしっかり作っていく。実はそれもグランドデザインの中に入っていることなんです。

――グランドデザインの核になっている理念は何ですか?

「挑戦し続ける文化」と、「For youの意識」です。「脱皮しないと蛇は死ぬ」という言葉がありますが、蛇は成長のため、また生体維持のために脱皮を繰り返します。過去成果を上げた事実や方法を経験にすることはもちろん大事。でもそこを安住の地にして、次のステップへ進まないということは、会社としての成長がストップすることになる。これだと、今は乗り越えられても、次に危機が来た時に踏ん張れません。また、個人的にですが、たとえば半年を振り返って、自分の中で一番チャレンジしたことは何かを明確にできていなければ、「何をやっていたんだ」と自分を責めてしまうところがあります。

後者は、行動指針の一つでもあります。競争社会ではありますが、自分さえよくて目立てればいいという考え方は認めません。大きな成績を残すのは「For meの意識」ではなく「For youの意識」でないとできないのです。そのためにとにかくチームが一丸となれる文化を築き続けていますね。

そしてそれは新入社員の時期に、徹底してたたき込まれます。三つ子の魂百までではないですが、私自身がすべての新入社員に最初に会社の哲学をしっかり教え込み、マインドセットを行います。たとえば漠然と「100メートルを10秒で走れるようになりたいな」と考えている人と、「100メートル10秒以内を1年で達成する」と考える人がいたら、後者のほうが成長します。私としては「必ず1年で切ってほしい。そのためにあなたに必要なのはこういうこと。必ずできる」と伝え、本人からも「必ずやる」と宣言してもらえれば、成功する確率は上がります。そして着実に成果を上げている姿を見逃さないこと。これを守ると、意識の低い社員はまずいなくなりますね。それは中途採用、つまりベテランの人材活用にも共通して言えることだと思います。

倒産の危機からトップに返り咲いた劇的逆転

――実は一度、倒産の危機があったとか。そこから再び業界トップへ。どういう復活劇だったのですか?

スマホへの転換が大きかったと思います。当時(2011年)、ガラケーからスマホへ移るのは、まさに死中に活を見出す決断だったんです。ガラケーの所有割合が圧倒的に多く、「iPhone」や「アンドロイド」という言葉もまだ一般的ではありませんでした。そんな中での方向転換は、有識者からすると理解できないものだったでしょう。でもリスクをとらなければ、会社が生き残れない。そういう切羽詰まった状況でした。「もしかしたら倒産まで行くかもしれない……」。そんな恐怖の中、とにかく自分自身と向き合い、会社のあり方を考えました。そこで、あえて目先の利益でなくナンバーワンを再び目指そうと決意したんです。

――ナンバーワンになると何が変わってくるのですか?

その業界でトップクラスの企業とお付き合いさせていただく機会が増えます。これはどの業界でも言えることですが、ナンバーワンの企業では社員が実に楽しそうに仕事をしているんです。2位の企業は1位を倒すための見方に凝り固まりやすいし、3位以下は余力の少ない経営になります。会社の成長、社員の成長をうながすには1位という土台が不可欠。だからこそ、私も役員も「ナンバーワン!」にこだわり続けています。

――それがナンバーワンの強みなのですね

ただし、何の苦労もなく1位になっている企業と、這い上がって1位になってきた企業は異なります。苦労を知る人たちがいる会社は、そこを知っているぶんだけ強い組織になりやすい。景気が悪くなったり、今までのやりかたでうまくいかなくなると、すぐに気付いて対策を練ろうとします。どれだけ苦労し、どれだけ脱皮を繰り返せたかで、遺伝子的に危機を未然に防ぐDNAができてくると思っています。