上司から怒られたり、あるいは顧客からクレームを受けたりした時に「そりゃ言っていることは完全に正しいと思うけど、そんな言い方しなくたっていいんじゃないか」と思ってしまったことはないだろうか。

言葉はとても面白いもので、まったく同じ情報を伝える場合であっても「言い方」を変えるだけで印象はガラリと変わる。たとえば、何を食べたいのか聞かれた時に 「オムライスでいいです」
と答えるのと
「オムライスがいいです」
と答えるのとでは、相手に与える印象はだいぶ異なるだろう。ほんの一文字しか違わないし「オムライスが食べたい」という情報そのものに差はないが、前者と後者で調理者のモチベーションは大きく変化するに違いない。

このように「言い方」は本来コミュニケーションにおいてとても重要な要素となるが、実際には無頓着な人も結構多い。「自分は普通に思ったことを話しているだけなのに、なぜか相手を気落ちさせたり怒らせたりすることが少なくない」という人は、きっとこの点に問題がある。そういう人は、今回紹介する『相手を逆上させる言い方、感謝される言い方』(竹内幸子/宝島社/2015年4月/1300円+税)を読むことをおすすめしたい。本書の著者は企業向けCS研修や新入社員研修などを手がける人材教育コンサルタントであり、まさに「ものの言い方」のプロである。本書に掲載されている表現の数は非常に多く、実用性十分な「使える一冊」だと言ってよいだろう。

性格は変えられなくても「言い方」は変えられる

竹内幸子『相手を逆上させる言い方、感謝される言い方』(竹内幸子/宝島社/2015年4月/1300円+税)

基本的に、性格を急に変えることは難しい。特に、ある程度大人になってから性格を改めようと思ってもそれはほとんど不可能である。自己啓発書の中には自分の性格にまで踏み込んで変化を促すものもあるが、それで本当に変わることができるかには疑問が残る。せいぜい、一時的にやる気になるぐらいがいいところだろう。

一方で、本書のように性格を変えるのではなく「言い方」を変えるというアプローチはかなり現実的だ。実際、性格までは変えなくても「言い方」を変えるだけで人間関係は十分に円滑になる。そして、「言い方」を変えることは性格を変えるのと違ってすぐにでも実行することができる。どちらがコストパフォーマンスがよいかは明らかだ。

適切なものの言い方を覚えるというのは、正しい敬語を使えるようになることと近いものがあると僕は個人的には思う。いずれもビジネスの本質ではないものの、身に付ければ絶大な力を発揮する。そして、身に付けるのに必要なのは適切な訓練であり特殊な能力は必要ない。ビジネスパーソンならぜひ敬語とセットで「言い方」も身につけてみてはいかがだろうか。

相手のタイプを見極めて適切に言葉を選ぶ

本書では、「言い方」を考える際にまず相手を「4つのタイプ」に分類し、それに合わせて言葉を選ぶという方法が紹介されている。ここでいう4つのタイプとは「主導タイプ」、「感情タイプ」、「調和タイプ」、「分析タイプ」のことだ。それぞれのタイプについて適切な言い換え言葉があるのでそれらを覚えていけば自然にコミュニケーションが円滑になる。

たとえば、「主導タイプ」は自己表現と感情表現に優れた「静」よりも「動」を好む人を表すタイプと説明されているが、このようなタイプの人と付き合うとしばしば「強引だなあ」とか「こわいなあ」といった印象を抱くことがある。これをそのままストレートに表現してしまうのは、当然ながらよろしくない。この場合は「強引」→「リーダーシップがある」、「こわい」→「威厳がある」と言い換えてみると、だいぶ相手に与える印象が変わることがわかる。

他にも、本書では「感情タイプ」の人への言い換えとして「がさつ」→「裏表がない」、「八方美人」→「気配り上手」、「調和タイプ」の人であれば「打たれ弱い」→「感受性が強い」など、「なるほど、うまいな」と思わせるような表現が紹介されている。こういう言い換えが自然にできるようになると、コミュニケーションは何倍も円滑になることだろう。

マイナスフレーズを意識して使わないようにする

他にも、本書には使うと相手に悪印象を与える「マイナスフレーズ」が載っている。読んでみるといくつか自分でも時折口にしてしまうようなフレーズが並んでおり「今後気をつけなければ」という気持ちにさせられる。

たとえば、「みんなそうしてます」「常識だよね」「言われてません」「昨日も報告しましたとおり」「前の会社では」といったフレーズが紹介されているが、これらは自分が逆に言われる立場になることを想像してみると、容易にマイナスフレーズであることが理解できる。

本書をうまく活用することができれば、「言い方」で損をすることはずっと少なくなるはずだ。そうすれば周囲からの協力も得やすくなり、人間関係がさらに円滑になることだろう。ぜひ挑戦してみてほしい。


日野瑛太郎
ブロガー、ソフトウェアエンジニア。経営者と従業員の両方を経験したことで日本の労働の矛盾に気づき、「脱社畜ブログ」を開設。現在も日本人の働き方に関する意見を発信し続けている。著書に『脱社畜の働き方』(技術評論社)、『あ、「やりがい」とかいらないんで、とりあえず残業代ください。』(東洋経済新報社)がある。