Maxim Integratedは5月27日(米国時間)、同社が提供する組み込みセキュリティソリューション「DeepCover」の最新製品として、耐ガンマ線1-Wireメモリ「DS28E80」を発表した。これに併せて、同社のExective Director, Embedded Security, Industrial&Medical Solutions Groupを務めるScott Jones氏に同製品ならびにDeepCoverの現状を聞く機会をいただいたので、その模様をお伝えしたい。

Maxim IntegratedにてExective Director, Embedded Security, Industrial&Medical Solutions Groupを務めるScott Jones氏

同社は組み込みセキュリティとして、ネットワークにつながっている機器のセキュアな通信の実現、ならびに製造業を営む企業が何か製品を輸出する際のIPを守る、といった2つの側面から取り組みを進めている。

製品ラインアップは大別して「Secure Micros」と「Secure Authenticators」の2つがあり、Secure Microsとしては、長年にわたってセキュリティが必要とされてきたさまざまな市場に各種の製品を提供してきた経緯があり、例えば金融分野としては、全世界の金融トランザクションのうち、30%のシェアを獲得しているとするほか、POSレジとして、ペイメントカードインダストリ(PCI)が規定する最新のセキュリティ基準であるPCI 4.0に準拠した製品の25%に搭載されているとする。一方のSecure Authenticatorsは医療や通信機器、耐久消費財などに向けて主に提供されており、分野が幅広いためマーケットシェアの算出は難しいものの、出荷数としてはすでに21億個を超すまでに至っているとする。

また、近年、新たなセキュリティ市場が立ち上がってきたという。大きな市場としては、「スマートグリッド」「産業機器(コントロール/オートメーション)」「ウェルネス」の3つである。「これらは、これまでも機器そのものの市場としては存在していたが、近年になってセキュリティが求められるようになってきた」と同氏は語る。こうした新興分野に対しても、様々な製品を展開している同社だが、中でもウェルネス関連は積極的に投資を行っている分野だという。

「スマートグリッド」「産業機器(コントロール/オートメーション)」「ウェルネス」の3分野は、近年、セキュリティニーズが増大してきており、Maximもこうした分野に対応する製品の開発を進めてきている

「我々は25年におよぶセキュリティに関するノウハウを蓄積し、それを半導体デバイスに投入している。DeepCoverはそれらを集約した製品群であり、ソフトウェア的であってもハードウェア的であっても、秘密鍵を盗み出そうという行為に対する対策が施されているほか、質の高い乱数生成技術を搭載することで、解読が困難な乱数を生み出すことを可能としている」(同)とする一方で、「耐久消費財やモバイル機器では低コスト化や低消費電力化、小型化といった部分で厳しい要求が突きつけられている。そうしたニーズに対し、我々はセキュリティとコストのバランスを考慮することで、最適なコストで最適なレベルのセキュリティを提供できる取り組みを進めてきた」と、様々な業界ニーズに対応できる柔軟性を強調する。

今回発表された「DS28E80」は、医療機器関連に特化した製品となる。その最大の特徴は、ガンマ線への耐性を備えたストレージセル技術を採用したこと。医療現場における器具の中には、使用後に滅菌や減菌処理が必要となるものがあり、それらはガンマ線を照射することが規定されているものがある。しかし、半導体デバイスにとってガンマ線(放射線)は大敵で、放射線が当たったことによってビット反転が生じたり、データが破損したり、といった問題が起こる。同製品は8バイトのブロックで構成された248バイトのユーザーメモリを備えているが、75kGyのガンマ線耐性があり、そこまではガンマ線が照射されても、メモリ内に記憶しているデータが消失することがなく、機器使用回数の上限の算定などを容易に行えるようになっている。

耐ガンマ線1-Wireメモリチップ「DS28E80」の概要。1-Wireは同社の独自技術で1本のケーブルで電力と情報のやり取りを可能とする

医療技術が進んでいる先進諸国が対象となるとみられるが、「医療機器向けに数百万ユニットの規模が想定されており、1000万ドル規模の売り上げも期待できる」と同は語っており、製品単体ではなく、トータルなソリューションを構築し、カスタマに提供することで、利用促進を図りたいとしている。

セキュア製品向けにセキュリティ技術はもとより、周辺の技術も多数開発し、組み合わせて提供することで、カスタマがセキュリティに悩むことなく、製品を開発する手助けを実現しているという

最後に、同氏に今後のMaximのセキュリティについてのスタンスを聞いたところ、「我々の基本的な方向性としては、セキュリティの機能を高めていくイノベーションを生み出していくことを明言している。セキュリティにとって、一番の脅威は、そのセキュリティ技術を破ろうとする手段が次々と考案され、セキュリティ技術が時代遅れになることであり、常に新たなセキュリティ技術を生み出していく必要がある。どんなに強固なセキュリティ技術であっても、様々な技術が発展していく将来にわたって、それが破られないという保証はない。そうしたことを考慮し、常に新たな技術を考え、製品として提供していくのがMaximの役目た。今後もよりセキュアな技術や製品を、様々な分野に向けて提供していくので、カスタマの皆さんは、自身の製品をよりセキュアにしたいと思ったら、ぜひ一度、相談してもらいたい」という答えをくれた。実際、今回の製品は医療機器向けであるが、分野に特化した形での製品を提供していくことを当然として、技術や製品を開発しており、今後もそうした適用分野の拡大を図っていきたいとしていた。