日本マイクロソフトは5月19日、Surfaceシリーズの新モデル「Surface 3」を6月19日より発売すると発表した。同モデルより初めて投入されるLTE版だが、個人向けではこのモデルのみでWi-Fi版が提供されない。販売店はワイモバイルと家電量販店のみとなる。

Surface 3

おおまかなスペックなどは過去記事(「Windows PhoneからSurface 3まで - 日本にはない米国のMicrosoft Storeとは?」、「米MicrosoftがSurface 3を電撃発表 - 10.8インチ液晶で非Win RT、LTE対応も」)を参照いただきたい。

今回の発表で特に驚きを与えたのが、個人向け販売がソフトバンクモバイル独占だったことだ。Wi-Fi版の用意がなく、LTE版オンリーで、基本的にはワイモバイル販売店での購入のみ。LTE版のみというと「回線契約が必須なのか?」と少々腰が引けてしまうが、その点は「一括支払いの場合には回線を契約する必要はない」と、エリック・ガン氏が説明する。ただ同時に「ワイモバイルで2年契約をしていただくと様々な特典がついてくる」とアピールも。なお、Surface 3はSIMフリーとして提供されるため、他キャリアSIMを挿すことでそのまま利用できる。ただ、対応周波数が900MHzと1.7GHz、2.1GHzに限られるため、注意が必要だ。

ワイモバイルのSIM。LTE版の販売は世界初となる

個人向けこそワイモバイルの販売だが、法人向けでは日本マイクロソフトとソフトバンクモバイルが「戦略的パートナーシップ」(日本マイクロソフト 代表執行役 社長 樋口 泰行氏)をもって販売を行う。法人向けではWi-Fi版も提供される予定で、これまでSurfaceシリーズを取り扱ってきた全国の販売パートナーの700社以上から引き続き販売するとしている。

戦略的パートナーシップを組むマイクロソフトとソフトバンク。法人向けはソフトバンクモバイルとして販売を行う

ただ、日本マイクロソフトの関係者によると、法人向けのSurface 3の販売についても「LTEの割合がWi-Fiを超えるのではないか」という見通しがあるのだという。実際に、販売前から導入を決めた三井住友銀行もLTE版が600台、Wi-Fi版が400台という導入台数になっている。こうした背景には、日本のセルラー網品質の高さにある。ワイモバイルに限らずLTE網の整備が諸外国に比べ行き届いており、通信速度が出てエリアも広い。こうした状況からLTE対応スマートフォンの浸透率も高く、「ユーザーがセルラーのモバイル環境に馴れ親しんでいる」(関係者)ことから、世界ではじめてとなるLTE版Surface 3の販売が決まったのだという。

Surface 3でもSurfaceシリーズお馴染みのドッキングステーションが提供される。全てのエンドポイントを集約するニーズが強い法人市場で採用例が多く見られる。
三井住友銀行は、早くもSurface 3の採用を決めた

また、タブレット端末では先行するAppleのiPadについても同様の傾向が見られる。iPad自体は、世界の販売台数が2013年度から2014年度に減少してしまったものの、法人需要の開拓にAppleがかじを切っているとされる。これは、IBMとの提携からもわかることで、コンシューマーに比べてワンテンポ遅れてモバイル活用が進んでいる法人市場の需要が次なる成長の鍵となるわけだ。

となると、この市場で負けていられないのがマイクロソフト。ご存知の通り、サーバーOSからAzure、Office 365、Dynamics CRMなど、様々なエンタープライズ製品を取り揃える同社にとって、お膝元では負けていられない。総合的なSI力や販売パートナーは、一朝一夕では培えない様々なナレッジを蓄えているマイクロソフトが真価を発揮できる場所でもある。

その一方で、マイクロソフトでもOfficeやExchangeなどのシステム更新時期からのクラウド移行といった提案力は持っているものの、モバイル活用を進めていくという文脈のもとでの導入実績は乏しい。そこで、モバイルシステムの本流である携帯キャリアと組むことで「モバイル側のシステム更新やワークスタイル改革を進める文脈の企業への提案力」(関係者)をSurfaceに加えたかったようだ。

調査によっては、iPadのLTE版販売比率は75%に達するなど、もはやセルラー前提の顧客が増えていることから「今後、企業ではモバイルWi-Fiルーターを別に持つことなく全てが入ってるタブレットにシフトする」(関係者)としており、2 in 1 PCでもセルラーモデルが売れ筋になるのも時間の問題かもしれない。

また、樋口氏が会見中に「コンシューマーフォーカス、ビジネスフォーカスという片方だけではダメ」と語ったように、ビジネスの時間とパーソナルの時間は切り分けが難しくなりつつある。「両方にアドレスできるマイクロソフト」(樋口氏)という強みが最大限活かせるLTE版Surface 3の成功次第では、タブレット端末市場の勢力図が大きく変わることだろう。

(左から)米Microsoft Surface&Windows Hardware セールス&マーケティング担当ジェネラルマネージャー ブライアン・ホール氏、日本マイクロソフト 代表執行役 社長 樋口泰行氏、ソフトバンクモバイル 専務取締役 エリック・ガン氏

樋口氏は7月で社長職を退き会長に(日本マイクロソフト 新社長に平野副社長 - 樋口氏は会長へ)